第75話 おじさん薔薇乙女十字団に魔法を教える



 当面の薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの活動方針が決まった。

 おじさんとしては、ここで散会とするつもりであったのだ。

 しかし御令嬢たちの意思は強かった。


「あの、よろしければ少しだけでも手ほどきしていただけないでしょうか?」


 そんな言葉がでたのである。

 おじさんとしても、御令嬢たちの向上心を無碍にすることはできなかった。


「そうですわね。では少しだけ手ほどきをいたしましょうか」


 “お願いします”と御令嬢たちが声をそろえて答える。


「では、魔力循環をしてくださいます?」


 おじさんの指示に従って、全員が魔力の循環をする。

 さすがに優秀なクラスに集まっている生徒たちだ。

 全員がそれなりの練度であるのがわかる。


 確かに優秀なのだ。

 だがあくまでも学生レベルでのことである。

 おじさんはどこまで引き上げるべきかを考えていた。

 ただ自分を除く十四人をすべて見ることはできない。


 そこで聖女、アルベルタ嬢、パトリーシア嬢の三人を指名する。

 三人はレベルが高い御令嬢たちの中でも、頭一つ抜けるほど練度が高い。


 残る十一人をおじさんは四つのグループにわける。

 似たような練度のグループが三つに、少し劣っているグループが一つだ。

 前者はおじさんが指名した三名を指導係とした。


 残るグループにおじさんがつく。

 少し劣ってはいるが、しっかりと基礎は身についている。

 ただし練度が低い。


 恐らくは苦手意識があるのだろうと判断して、おじさんは弟にしたのと同じ手法をとる。

 強制的に上のレベルを体感させる方法だ。


「手をだしてくださいな」


 おじさんは御令嬢の手を握って、強制的に魔力を循環させる。

 ただしその威力は弱めだ。

 弟のようにすると、学園から帰宅できなくなってしまう。

 なので手加減をした。


 それでも御令嬢たちにとっては衝撃だったのだろう。

 おじさんが担当した四人の御令嬢は、例外なくグッタリとしてしてしまった。

 ただその表情は苦しさよりも歓喜に満ちていたのである。


「ちょっと、リー。なんでそれができるの?」


 聖女である。

 強制的な魔力の循環のことを指しての言葉だ。


「魔力に干渉することですか?」


「そうよ。それって神殿でもできる人がほとんどいないんだけど」


「そうなんですの?」


 “はぁ”とこれ見よがしに聖女は息を吐いてみせた。


「神殿だと、それって奥義になっているの! それができると治癒魔法の効果が高まるからね!」


「奥義? そこまで言うほどのものなのですか?」


 おじさんにとって魔法は呼吸をするようにできるものである。

 それだけの鍛錬を重ねてきたのだが、その自覚がない。

 好きこそものの上手なれとは言い得て妙なのだ。

 

 ちなみにおじさんは母親から教わっているし、父親も魔力への干渉ができる。

 父親は祖母から教わったのだ。

 つまりおじさんにとって、ある程度の使い手は皆ができるという認識であった。


 そのある程度というのが、国内有数だという事実をおじさんは知らなかったのだ。

 おじさんの誤認を生んだのは、歴代公爵家でも特にハイレベルな実力者が揃っていたのも理由のひとつだったりする。

 まさに名門貴族ここに極まれりである。


「ったく、あんたって子は!」


 聖女がヤレヤレといったようなポーズをとる。


「アタシにも教えてくださいな!」


 くるりと聖女の手のひらが返った瞬間であった。


「では、当面の目標は魔力の干渉といたしましょうか」


 おじさんの提案に全員が頷いた。

 それがまた別の問題を引き起こすことになるのである。



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