第74話 おじさんたち薔薇乙女十字団のお茶会と活動方針



 薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの役職が決まったところで一段落がついた。

 一瞬だが弛緩した空気が流れそうになったところで、アルベルタ嬢がパンパンと柏手を打つ。


「では次に薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの活動方針を……」


 と言葉にしたところで“きゅるる”と音が鳴る。

 誰と指摘するほど無粋な者はいない。

 なにせこの部屋に集まっているのは、御令嬢とはいえ成長期まっさかりなのだ。

 お腹がすいて当たり前である。


「アルベル……こほん、アリィ。お茶にしましょう。エーリカもそれでよろしくって?」


 おじさんが提案した。

 

「ちょっと! なんでそこでアタシの名前をつけたすのよ!」


「なんとなくですわ」


「リーお姉様!」


 パトリーシア嬢が手をあげる。


「先日のお魚のサンドイッチが食べたいのです! とっても美味しかったのです!」


 “もちろん”と笑顔で答えつつ、おじさんは宝珠次元庫から取りだす。

 こんなこともあろうかと、仲良くなった料理人に作ってもらっていたのである。

 もちろん新作となるカツサンドもあった。


 アルベルタ嬢が中心となって、給湯器を使ってお茶を淹れてくれる。

 そこにおじさんのサンドイッチとスイーツ類がならぶ。


「では召し上がってくださいな」


 もうかしましいという表現以外にはなかった。

 そこかしこで女子たちの話に花が咲く。

 たださすがに御令嬢といったところか。

 話題の中心になっているのは、薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの活動内容についてだった。


 あれがいい、これがいい。

 いやこんな感じもありなんじゃない。

 などと話が盛り上がっていく。


「ちょなによ! このカツサンド! めちゃくちゃ美味しいじゃない!」


「リーお姉様、やっぱりお魚のサンドイッチがいちばんですわ!」


 そんな喜びの声をあげる令嬢たちとは違って、黙々と、淡々と、楚々として食べる者がいた。

 アルベルタ嬢である。

 無言。

 その様子にはどこか鬼気迫るものがあった。


「では当面の薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの活動方針を決めていきましょう」


 皆が人心地ついたところで、おじさんが宣言する。

 とはいえ、先ほどの歓談の中でだいたいの方針は決まっていた。


「リーお姉様!」


 パトリーシア嬢がいつものように手をあげる。

 おじさんは目で続きをうながした。


「きたる対校戦にむけて、当面は魔法訓練を提案しますの」


 そう。

 対校戦である。

 王国内にある学校は学園だけではない。

 複数の教育機関があり、それらで対校戦を行なうのだ。

 そして優勝した教育機関は、友好国との代表戦をするのである。


 対校戦への出場を決める選抜が来期早々に行なわれる。

 先ほど話が盛り上がっていたのは、薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツで一年の代表を独占するという計画だ。

 計画を達成するために必要なのは実力である。

 そこで魔法訓練なのだ。


「では決を採りましょうか」


 その言葉はもはや茶番である。

 しかし建前というのは大事なのだ。

 全員が賛成したという記録が残る。


「賛成十五票。反対票なしですわね。では魔法訓練を当面の活動内容としましょう」


 おじさんの言葉に全員が拍手をしたのであった。

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