第70話 おじさんのゲームがブームをよぶかもしれない



 料理とお茶を運ぶのは使用人に任せて、おじさんはサロンへと戻った。

 壁際にいた侍女に調理場のことを告げると、こくりと頷いて退室していく。


「お父様、お母様。少し休憩といたしませんか?」


“ぬわあ!”と声をあげたのは父親である。

 コマはじきゲームでどうやら母親が勝ったみたいだ。

 おじさんの声に両親が顔をあげる。


「リーちゃん、こんなに楽しいのって初めてかも」


 文化とは平和な時間が長くなければ育たないものである。

 その点、アメスベルダ王国は近隣諸国と比較すれば平和な方だろう。

 ただしそれも先人が魔物と戦い、安全な居住地域を獲得してきたからである。

 

 まだ魔物は完全に駆逐できていない。

 いや駆逐できるのかどうかすら判明していないのだ。

 だからこそ文化が育ちにくいのである。


 結果、おじさんがしたことは大きな波紋を起こすことになった。

 

 おじさんが気合いを入れて作った木製のおもちゃはインテリアにもなる高級感がある。

 それを商会で扱おうとなるのも自然の流れだったのだろう。

 父親も乗り気であった。


「兄上に献上して、我が国の特産品とするのもいいだろうね」


 兄上とは国王陛下その人である。

 ちなみに父親は王国内では外務のトップだ。

 おじさん的に言えば、外務大臣なのである。

 持ち運びしやすく、高級感のある玩具ともなると使い道は山のようにあるのだろう。


「そうだわ! リーちゃん、いっそのこと玩具で遊べる場所を作ったらどうかしら?」


「はにゃ?」


 思ってもみなかった母親の言葉に、おじさんの口からかわいい言葉が漏れた。

 母親の言うのはまさにゲームセンターである。

 この言葉からおじさんがイメージしたのは娯楽室だ。


 しかし母親が言うことを詳しく聞くと、遊園地のようなイメージだったのである。

 一室とかせこいことを言うなという話だ。

 それは仮の王を名のる許可を求めた臣下に対して、“けちくさいこと言うな、堂々と王を名のれ”と返した古の王を彷彿とさせる。

 さすが母親も生粋の御令嬢である。

 

 スケールの規模が違う。

 とは言え、遊園地のような規模となると無理がある。

 王都にはそこまでの土地がない。


 だがカラセベド公爵家の領地であれば別の話だ。

 一大娯楽施設を作るだけの土地は十分にある。

 あるのだが、それが成功するのだろうか。

 おじさんとしては心配してしまう。


「こちらリー様がお作りなられた軽食でございます」


 侍女がカツサンドを運んできた。

 手際よくお茶の用意も進み、そこで休憩となったのである。


「どうぞ召しあがってくださいな」


 立ち上る香りにやられたのだろうか。

 おじさんの言葉で父親が豪快にカツサンドにかぶりついた。

 そして次の瞬間には目を大きくさせる。


「美味しい! リー、これは豚鬼人オークの肉かい?」


「ピリッとしていていいわね。スルッと入っちゃうわ」


 と言いつつ、母親と父親はアルコールとあわせるようだ。

 夜も深まってきている。


「リー、このレシピも料理長は知っているんだよね?」


「もちろんですわ」


 おじさんの言葉に満面の笑みで応える父親である。


「うん、これはいいな。元気がでてくる気がするよ。明日、兄上と義姉上に献上してみようか」


「そうね、姉様もお好きな味だと思うわ。ふふ……またリーちゃんをちょうだいって言いそうだけど」


「いかに義姉上とは言え、それは許せんな。いずれ王太子殿下と結ばれるにしろ、それまではうちの子だ」


「ううん、でもあの子はおバカだって姉様が言ってたけど大丈夫なの?」


 おじさんとしては婚約破棄でいいぞと思っている。

 だから内心で母親を応援していたのだ。

 とは言え、それがなかなか難しい問題でもあることを重々承知しているおじさんであった。


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