第69話 おじさん夜食に男メシを作る



 カラセベド公爵家の面々は使用人を引き連れて、サロンへと移動することになった。

 さすがにおじさんの自室では狭いからである。

 サロンではおじさんが宝珠次元庫から、ゲームを取りだしては解説していく。


 そのルールを使用人たちはメモにとってまで覚えている。

 弟妹たちはどのゲームで遊ぼうかと相談し、母親は目をキラキラとさせていた。

 思い思いのゲームを楽しみ、盛り上がる。


 おじさんも遊んだ。

 いや遊び倒していた。

 前世では一人でサイコロをコロコロしていたのだ。

 比べることすらおこがましい夢のようなひとときであった。


 そんな熱狂のさなかに父親が帰宅したのである。

 既に遊び疲れた弟妹がすでに首をこっくりこっくりとさせている。

 

「え……と、リー? 説明してくれる?」


 困惑した表情の父親だったが、同時に母親が楽しそうに声をあげている姿に目を細めている。


「おかえりなさいませ、お父様。かんたんに言うと、遊びを考案したのですわ」


 素直にパクったとは言えないおじさんであった。

 父親にもゲームを説明し、一緒になって遊んでみる。

 新しい娯楽であると理解し、それを全力で楽しむ父親であった。


 夕食をはさんだものの、そこでも話題はゲームのことばかりである。


「ヴェロニカ、ちょっと手加減してくれない?」


「ダメよ。全力で勝負するから楽しいの!」


 弟妹たちはさすがに電池切れで眠っている。

 しかし両親にとって、ここからが本番のようであった。


 特に両親がはまったのが、弟妹たちには難しいカードゲームである。

 おじさんが用意したものの中には、バッティングゲームがあった。

 他人とかぶってはいけないゲームだ。


 夫婦とさらに執事長や侍女長まで加わっている。

 他に手の空いている使用人たちも、思い思いのゲームを楽しんでいた。


 おじさんもはしゃいだからか、空腹を覚えた。

 そしてなぜだか久しぶりに男メシが食べたくなったのだ。

 上品なものを食べるのもいい。

 しかしジャンクなものも口にしたくなっただけの話である。


 おじさんはゲームで盛り上がるサロンをそっと抜ける。

 その足で調理場まで歩を進めた。


「リー様、なにか御用でしょうか?」


 以前、おじさんと一緒にピザを作ったそばかすがチャームポイントの使用人である。


「また少しお料理をさせていただきたいのですわ」


「あの本日の夕食に不備がありましたでしょうか?」


 おじさんの言葉に不安そうに目を揺らす使用人である。


「そうではありませんわ。お父様もお母様もお忙しくされてるから、なにか作ってさしあげようと思ったんですの」


 ホッとひと息をついた使用人である。


「じゃあこの前みたいにまかない的な料理ですか? アタシにもお手伝いさせてください」


 二つ返事で了承したおじさんは、料理長にも挨拶をして食材をそろえる。

 料理長も協力してくれたので、カツサンドを作る予定だ。

 おじさんの錬成魔法が火をふいた結果、勢いあまって調味料まで作ってしまった。

 

 ウスターソースにケチャップである。

 ちなみにマスタードはこちらの世界のものだ。

 豚肉を厚めに切ったものに下味をつけてからラードで揚げていく。

 このラードは豚鬼人オークのものである。


 調味料をまぜて作ったタレをたっぷりと塗る。

 パンは軽く焼いてバターとマスタードで膜を作っておくのだ。

 野菜の水分でパンがしんなりしないように。

 そこへ新鮮な葉物野菜をしいて、揚げたてのカツをのせてパンではさむ。


 料理人たちのサポートで、手早く作られたカツサンドは暴力的な匂いを放っていた。

 さっそくとばかりにおじさんが、その唇を開いてはむりといく。

 噛めば脂がじゅわりと甘く、複雑なタレの味と絡む。


 葉物野菜のシャキシャキ感が脂分を軽くさせる。

 ピリッとするマスタードとバターの優しい味わいがさらなる調和をよんだ。


「皆さんもどうぞ」


 おじさんは満面の笑みで料理人たちにカツサンドを勧めた。

 調理場に野太い叫び声がいくつもあがった瞬間である。


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