第68話 おじさんのゲームが熱狂をよぶ



 おじさんの部屋で妹がはしゃぐ。

 その声は部屋の外に漏れるほどの大きさだった。


「ねえさま、おもしろいね」


 卓上ボウリングにドはまりした妹はニコニコである。

 そこにおじさんは、さらなるゲームをだして妹の興味を惹いていく。


 英国が発祥とされるコマを弾くボードゲームだ。

 横に五十センチ、縦に三十センチほどの大きさの長方形がゲーム板となる。

 ゲーム板の周囲には低い壁があり、中央も木の板でしきられたものだ。

 肝となるのはボードの端についているゴム紐である。


 このゴム紐でリバーシのコマを一回り分厚くしたようなコマを弾くのだ。

 そしてしきり板の真ん中に開けられた穴にとおして、相手の陣地にコマを移すだけのシンプルさである。

 最初に用意するコマは自陣に八個、相手陣地にも八個である。

 相手の陣地にすべてのコマを移した方が勝ちという対戦ゲームだ。


 前世のおじさんはこのゲームを知って自作したのだが相手がいなかった。

 対戦ゲームという点を失念していた痛恨のミスである。


 ということで、おじさんは妹とゲームに興じることにした。

 妹のコマは四個、おじさんのコマは十二個とハンデをつける。


「あっ!」


 妹が声をだしたのは、コマを穴にとおせなかったからだ。


「ソニア、どんどんコマを飛ばしていくの」


 “こう”とおじさんは右手と左手の親指でゴム紐を引っぱり、定位置に置いたコマを弾く。

 弾かれたコマがスルスルと仕切り板の穴をとおって、妹の陣地へと移動する。


「すごい!」


 左手の親指以外を使って四個のコマを用意したおじさんは、まさに釣瓶撃つるべうちで穴にとおしていく。


「ずるい、ねえさま! それだめー!」

 

  妹の抗議を笑顔でいなすおじさんであった。


「そにあもする」


 姉妹の微笑ましい一幕だったのだが、夢中ではしゃいでいる妹の声は外にも漏れていた。

 その声に惹かれたのか母親と弟も、おじさんの自室に顔を見せたのである。

 人数が増えても、やることは同じだ。


 おじさんが用意しておいたゲームを紹介すると、さっそく弟妹たちで対戦が始まる。

 “きゃっきゃ”と子どもの高い声が響く。


「にいさま、よわい」


「ソニアが変な技を使うからだろ」


「ねえさまにおしえてもらったんだもん」


「ずるいぞ! 姉さま、ボクにも教えて!」


 そんな会話がされる一方で、母親は真剣な目つきでボウリングに興じていた。


「あー! 端と端が残っちゃったわ! リーちゃん、これ魔法使っていいの?」


 傾斜台から玉を転がすだけのボウリングなので、横回転はかけられない。

 つまりスプリットの状態だと、どちらか一本を倒すだけになるのだ。

 

 しかし魔法のある世界である。

 風の魔法でボールをコントロールすることも可能だ。

 

 もちろんボールにだけ風をあてるという精密な操作が必要になる。

 弱すぎても曲がらないし、強すぎてもダメなのだ。

 そんな精緻な魔法を気軽に使えるのは、王国広しといえどそう多くはない。


 正直に言うと、おじさんはそこまで考えていなかった。

 だが皆に気軽に楽しんでほしいのが本音である。


「ダメですわ。魔法は抜きでお願いしますわ」


「リーちゃんのケチ!」


 憎まれ口を叩きながらも、母親は傾斜台の角度を慎重に決めてボールを転がす。


「いけ!」


 絶妙なラインで端を狙ったボールは、ピンをかすめずガターに吸いこまれていった。


「あああ! なんでよう!」


 母親がこんなに取り乱した姿を見せるのは初めてのことだった。

 

「もう一回! もう一回!」


 すっかりボードゲームにはまってしまった家族の姿を見て、おじさんは満面の笑みであった。

 おじさんの作ったゲームはこれだけではない。

 他にもまだまだあった。


 大人から子どもまで楽しめるすごろくゲームや、バランスゲーム。

 それに熱狂をよぶカードゲームまでだ。


 おじさんがそれらを取りだしたとき、皆の目がギラギラとしたものになった。

 使用人も巻きこんでのゲーム大会が始まったのは、さすがにおじさんの誤算である。


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