第64話 おじさん課外授業のことを相談する


 おじさんはサロンにある椅子に腰を落ちつけた。

 クリソベリルは母親の膝の上でもふられている。

 オブシディアンは身体を小さくするすべを覚えて、おじさんの足下で丸くなっていた。


 おじさんと母親はお茶の用意が整うまでの間、ダンジョン講習の後始末の話をする。

 後始末といっても父親と学園長に丸投げしたものだ。

 意外と話はとんとん拍子で進んでいるらしく、ちょっとした臨時収入になりそうとのことだった。


 そんな話の間にすっかりとお茶の用意が整えられていた。

 さすがに公爵家に勤める一流の侍女である。


「で、リーちゃんの相談はなにかしら?」


 母親がハーブティーを含み、おじさんに話をうながした。

 “ええ”とおじさんもお茶で舌を湿らせる。


「実は課外活動のことですの。どこの活動に参加するかで悩んでいます」


「そういえばもうそんな時期ね。懐かしいわあ」


「お母様はどのような課外活動に参加なされていたのですか?」


「わたしは魔道具開発部ね」


 とそこから母親が所属していた部活動のことを詳しく聞くおじさんである。

 要約すれば既存の魔道具にとらわれずに、新しい物を開発していこう、という趣旨だ。

 なかなか興味深い部活だとおじさんは思う。


「そうねえ。リーちゃんなら自分で課外活動を作るのもいいかもしれないわ」


 “え?”とおじさんはとまどった。

 自分で新しい課外活動を作ることは、まったく発想になかったからだ。


「リーちゃんは小さな頃からいろいろなことに興味があったでしょう? だから自分を型にはめるようなことはしなくていいのよ」


 なるほどと、おじさんは深く頷いた。

 公爵家という力の背景はあったものの、おじさんが興味を持つものを両親は何も言わずに支えてくれたのである。

 自由にさせてくれたからこそ、今のおじさんがあるのだ。

 その方針を貫けと母親は言っている。


「それも……いえ、それがいいかもしれませんわね」


「確か……課外活動への参加者が十名以上必要だったと思うけど、そのくらい集まるでしょう?」


 おじさんが新しい課外活動をスタートさせる。

 そう言えば、十中八九の確率でクラスの女子は参加すると予想できた。

 女子はおじさん含めて十五人いるのだから、高いハードルではないのだろう。


 そんなおじさんの思考を中断させたのは、“あー”という母親の声だった。


「リーちゃん、学生会には誘われていないの?」


「学生会?」


 母親の説明によると、生徒会のようなものだった。

 前世におけるおじさんの学生生活ではまったく縁のなかったものである。

 公爵家という血筋に加えて、学園の中でもぬきんでた存在がおじさんだ。

 そんな組織があるのなら、声がかからない方がおかしい。


 一年生の中で声がかかりそうなメンバーはとおじさんは頭を巡らせた。

 王太子・聖女・おじさん・アルベルタ嬢は確実だろう。

 さらに王太子の取り巻きたち。

 正直なところ頭が痛くなりそうなメンバーである。


 ただ先輩もいるのだから、あまり心配はいらないのかもしれない。

 それでも一抹の不安が拭えないおじさんであった。


「そろそろ学園長から声がかかると思うのだけど。まぁでも掛け持ちすれば大丈夫よ」


 “わたしもそうだったし”と母親が笑顔でサバサンドをつまんだ。

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