第65話 おじさん新たな課外活動を結成する



 課外活動の件を母親に相談した翌日のことである。

 おじさんは登校すると、すぐにアルベルタ嬢を捕まえた。


「実はわたくし、新しい課外活動を申請しようと考えていますの。それでアルベルタ嬢には是非参加していただきたいのですわ」


 おじさんの言葉に、アルベルタ嬢は目を潤ませていた。


「万難を排して参加させていただきますわ!」


 “ありがとう”とおじさんはアルベルタ嬢に頭を下げた。


「リー様、部員集めは任せてくださいまし。聖女様は微妙なところですが、他の女子は全員参加するはずですわ」


 その日の昼食時は、おじさんの課外活動の話題でもちきりであった。

 食事をそそくさとすませたアルベルタ嬢は、いつの間にか姿を消していたほどだ。

 おじさんはクラスの女子たちに囲まれて、あれやこれやと聞かれている。


「さ、参加してもいいんだからね!」


 聖女もやってきておじさんに宣言する。

 結果、このクラスの女子たちは聖女も含めて、全員が参加することが決定となった。


「リー様、課外活動の名称はどうしましょうか?」


 その質問を待っていたのである。

 実はおじさん、夜なべしてああでもないこうでもないと考えていたのだ。

 席を立ち、令嬢たちの目を見ながらビシっと言い放つ。


薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツですわ!」


 おじさんの中二心が炸裂した瞬間であった。


 課外活動の話が一段落したところで、午後の講義がはじまる。

 どこか浮ついたような令嬢たちの姿に、男性講師はまたやらかしたなとおじさんを疑っていた。


「リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワー。このあと学園長室行くぞー」


 講義の終わりで、男性講師が告げる。

 既に母親に聞いているので、なぜ呼ばれたのかは想像がついているおじさんであった。


「学生会の件ですの?」


「たぶんなー」


 男性講師の間の抜けた口調にすっかり違和感を覚えなくなっているおじさんだ。

 そのまま学園長室へと男性講師と移動する。


「おお、きたか」


 学園長はいつものように重厚な雰囲気のある椅子に座っていた。


「先に用件をすませてしまおうかの。リーよ、来期から学生会へと所属するのじゃ」


 この学園長からの要請は拒否権がないのである。

 なのでおじさんも素直にうけいれる。


「かしこまりましたわ。わたくしからもお願いがありますの」


 “ふむ”と学園長は白髭をしごく。


「新しい課外活動を認めてほしいのですわ」


「十人以上の参加者は集まっておるのか?」


「既にクラスの女子全員、十五名が参加を表明しております」


「では問題ないのう。バーマン卿、手続きを進めておいてくれんか」


「はい。そのように」


 おじさんとしては少し拍子抜けであった。

 活動内容など一切聞かれなかったからである。

 ふつうはその辺りを詳しく審査されるのではないのだろうか。


「リーよ、学生会に参加することになる者以外を副代表につけておくといいぞ」


 おじさんが事前に予想していたとおりの者たちの名が告げられる。

 薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツに関係あるのは、おじさんと聖女、アルベルタ嬢の三人だ。

 詳しいことはアルベルタ嬢と相談だな、とおじさんは考えていた。


「御助言ありがたく思いますわ」


「うむ。先日の件なのだが、スランとは話がついておるからの」


「はい。父に聞いておきますわ」


 事務的な話が終わると、男性講師のみが退室する。

 おじさんはと言えば、学園長とお茶をしながら魔法談義に興じていた。

 先日の氷弾については、学園長の食いつきがクサフグなみである。


 ちなみに釣り人の間では、クサフグは何でも食いついてくる魚として有名だ。

 食用とすることもできるのだが、毒があるだけに釣ってもフグの調理免許がなければリリースするしかない。

 その割には餌をつけていない針にも食いつくのだ。

 まったく迷惑な魚なのである。


 マナー違反になるが、腹を立てた釣り人が防波堤や消波ブロックに捨てていく。

 そしてカピカピになった姿をさらすことも少なくない。


 クサフグを思いだしたのも、おじさんにとって学園長の食いつきは、むしろ好ましいものであったのだ。

 なぜなら、なんだかんだで魔法談義はおじさんの大好物だからである。



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