第56話 おじさん未踏破区域で石碑を発見する
『我が主よ、危険な魔物は徘徊していないようであるぞ。ただし偽装・隠蔽系の魔物がいるかもしれん』
トリちゃんの忠告に従って、おじさんはアンドロメダに自動迎撃をお願いしておく。
さすがに太陽神ルファルスラの神器である。
優秀な子なのだ。
「地図の作成は順調ですの?」
『無論である。案内するか?』
「もちろ……」
「不要ですわ! そんなことをしたらせっかくのダンジョンがもったいないですもの!」
女性講師の声を遮っておじさんが断言する。
そのやる気に満ちた表情を見て、女性講師は自分の言葉を飲みこんだのであった。
それと同時に一抹の不安も感じている。
“このままだと本当についていくだけになるかも”と。
未踏破区域を探索するのだ。
それはダンジョン講習とはわけがちがう。
つまり講師が先導しなくてはいけないのだが、おじさんはそんなことを微塵にも考えていない。
ということを女性講師が考えているうちに、おじさんは既に歩きだしていた。
“ふんふん”と鼻歌まじりで、とても上機嫌な様子である。
草原エリアは足下が見にくい。
踝ほどの高さの草が生えているので、そこに罠がしかけられていると判別しにくいのだ。
それは斥候が本職の女性講師にしても同じであった。
この場合は慎重に安全を確認しながら歩くのが基本だ。
例えば長い棒を使って、進路前方を叩いたり、つついたりして罠がないか確認するのが常道である。
しかしおじさんは悠々と草原を闊歩していく。
ルファの鎖ことアンドロメダが、時折自動的に獲物を狩ってくる。
その上、罠があればそれをわざと作動させてくれるのだ。
これではただの散歩である。
しばらく歩くと、おじさんの周囲には探索を終えた小鳥たちも戻ってきた。
少し青みがかった銀髪の美少女にまとわりつくようにして、色とりどりの愛らしい小鳥たちが遊んでいる。
それはもう素晴らしく絵画的でもあった。
“講師ってなんなの?”と疑問を抱きつつあった女性講師の耳におじさんの声が聞こえてくる。
「メーガン先生、アンちゃんがなにかを見つけたようですわ!」
そうなのだ。
先ほどからアンドロメダがおじさんの右腕をくぃと引っぱっている。
これはなにかあるのだろう、と判断したのだ。
「え? そんなことまで?」
「うちの子はデキる子なんです!」
『当然だな! 主よ、我もそこに入っているのだろうな?』
「……トリちゃんは微妙ですわ」
『微妙!? 主よ、我は役に立つぞ! デキる子である!』
「では挽回してくださいな」
『ふはははは! 任せておくのだ、主よ。我の実力をとくと見せようではないか!』
アンドロメダの先導に従って、おじさんたちは歩いていく。
しばらく行くと草原にある小さな丘にでた。
その丘の上に白い墓標のような石碑立てられている。
『古代文字だな、主よ』
「この書式ですと、前期魔導帝国時代のものですわね」
歴史的にいえばだいたい三千年ほど前に栄えていた古代文明のことだ。
そこでは特徴的な書式が使われていたため、意外と判別はしやすい。
もちろん学生レベルではなく、専門の研究者のレベルではあるのだが。
「え? リーちゃん読めるの?」
「はい。古代文明はリューベンエルラッハ・ツクマー先生に御教授いただきましたの」
アメスベルタ王国内でも屈指の歴史学者である。
当然だが公爵家の伝手を使って便宜をはかってもらったのだ。
研究費を援助するのと引き換えに。
一時期は王都の公爵家邸に滞在し、幼少期のおじさんに歴史学の専門課程を教えていたのだ。
頭のネジの外れた人物が同じ種類の人物に教えるとこうなるという好例である。
「文字の羅列が……これ、クロスワードパズルですわね」
“ふむ”とおじさんは形のいい
「答えは……右・赤・左・青・中・黒……。メーガン先生、なにか心当たりはあります?」
「うん、ちょっと待ってねえ。先生、ちょおおっと混乱してるからあああああ!」
情緒が不安定。
もはや壊れかけている。
そんな女性講師のことを気にかけようとしたときであった。
『主よ、石碑の裏に穴が三つならんでおるぞ』
ふよふよと空中を漂うように移動するトリちゃんが言う。
『この穴にはまる
「じゃあとってきてくださる?」
おじさんの言葉に小鳥たちが羽ばたき、飛び去っていく。
その様子を見て、女性講師はもうぜんぶ受けいれることにしたのである。
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