第55話 おじさん初級ダンジョンで新たな魔法を使う
「とりあえずは……報告ね。もう少し待っていてね、リーちゃん。あと、悪いんだけど周囲を警戒しておいてくれる?」
先ほどの鞄へと冊子を戻し、そこから通信宝珠を取りだす女性講師であった。
ドロップ品である宝珠は、原則として一体から一個しか出現しない。
だがきわめて希に一体から二個の宝珠がドロップすることがあるのだ。
これを双子宝珠と呼んでいる。
双子宝珠には互いに魔力を送り合うという性質があるのだ。
これを利用して作られたのが通信宝珠である。
対になった宝珠へメッセージが送れるのだ。
「ミトウハクイキヲハッケンセリ、ヘントウモトム」
電報みたいだなと、おじさんはその様子を見ながら思った。
もちろん女性講師に指示された周辺への警戒は怠っていない。
ただおじさんではなく、アンドロメダがである。
時折、断末魔の叫びのようなものが聞こえてくる。
こんなに好戦的な子だったのだろうかと、おじさんは頭を悩ませた。
「デキルカギリノタンサクヲキョカスル」
返信を女性講師が読み上げてくれた。
「ここは上級の中だったダンジョン。攻略が終わって難易度が下がっているんだけど、なにが起こるかわからないわ。さっきの上位種のこともあるし……」
『ふははは。誰がついておると思っているのだ。我と主、それにアンドロメダもいるのだ! 大船にのったつもりでいるがいい』
こほん、とおじさんが咳払いをした。
その音にびくりとしたかのようにトリちゃんの宝石が明滅した。
『地図の作成は我に任せるがいい。主よ、あの魔法を使ってはどうかな?』
「いい機会ですわね」
おじさんは腰に提げた小袋から折りたたまれた紙を取りだす。
【式神・召喚】
トリガーワードによっておじさんの手にあった紙が小鳥へと変化していく。
赤・橙・黄・緑・青・藍 ・紫。
七羽の小鳥がおじさんの周囲を飛びまわる。
ひとりでダンジョン講習をうけると聞いたおじさんは事前準備に抜かりがなかった。
特におじさんに足りないのは索敵や周囲を把握する能力である。
それを補うために、トリちゃんに書かれた情報から式神という新しい魔法を作ったのだ。
錬成魔法によって作られる擬似的な魔法生物と符術を併用したものである。
おじさん的には簡易的な召喚魔法といった位置づけだ。
「いってらっしゃい」
おじさんの言葉で小鳥たちがダンジョンの中へと散らばっていく。
その視界を共有しているのがトリスメギストスだ。
最初はおじさんとも共有できるようにしたかったのだが、さすがに七つの視界を持つのは人の情報処理能力を超える。
いかにおじさんといえど、どうにもならなかったのである。
そこで苦肉の策としてトリスメギストスと共有することにしたのだ。
小鳥たちの視界から得られる情報で、地図がすごい勢いで作成されていく。
役割が限定されるのではなく、シンプルながらも万能なのがトリちゃんのスゴいところだ。
「え? ちょっと待って、ねえ? それって新しい魔法系統なんじゃ……?」
女性講師の声にトリスメギストスが応える。
『正確には失伝していた魔法を復活させ、さらに使いやすいようにアレンジしたであるな』
「うん……もうどうにでもしてぇ!」
いかに百戦錬磨の女性講師と言えど、おじさんの前には無力であった。
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