第57話 おじさん未踏破区域で隠し部屋を発見する
おじさんの下を飛び立った小鳥たちは五分も経たずに帰ってきた。
そのくちばしにビー玉大の小さな
赤・青・黒の三色だ。
小鳥たちから
すると地響きのような音を立てて石碑が持ち上がっていく。
タケノコがニョキニョキと地面から伸びていくようで、ちょっと気持ち悪いとおじさんは思った。
二メートルくらいの高さにまで石碑がもちあがると、埋まっていた部分に石造りの階段が見える。
「メーガン先生! やりましたわ! 階段ですの!」
ぴょんぴょん跳ねながら、邪気のかけらもない笑顔を見せるおじさんであった。
その笑顔に女性講師はなんだか自分が汚れているような感覚にとらわれてしまう。
“これが大人になるってことなのね”などと現実逃避をするほどだ。
そう気をそらしたときである。
女神もかくやという超絶美少女の顔が女性講師にせまってきたのだ。
おじさんのアクアブルーの瞳に真っ直ぐに見つめられてしまう。
その瞬間に身体が動かなくなるような錯覚に陥るほどの破壊力があった。
ドキドキと胸を高鳴らせて、“え? なに? キスされちゃうの?”と女性講師がやくたいもないことを考えたときである。
おじさんがおでこをぴとっと合わせた。
女性講師の鼻にフローラルないい香りが飛びこんでくる。
「お熱はないようですわね? 先生、顔色が悪いから心配いたしましたの」
スッと離れて、心配そうに女性講師の手を握るおじさんであった。
他方で女性講師の顔が真っ赤に染まっている。
「だ、だだだだだ大丈夫、大丈夫だから!」
泣きぼくろが妖艶な妙齢の女性講師があわてふためいていた。
パッとおじさんの手をふりほどいて、その染まった頬をはさむようにあてている。
“な、なんなのよ! もう! もう! もう!”と声にださずに身体をくねらせていた。
「だ、大丈夫ですの?」
完全に不審者になった女性講師に対して、おじさんは引き気味だ。
自分のやらかしたことには無自覚なのである。
「うん。大丈夫、さぁ行くわよ、リーちゃん!」
地下へと降りていく階段へ、そそくさと足を進める女性講師であった。
女性講師を先頭にして階段を降りていく。
最初の岩壁のように、この階段もまた全体的に淡い光を放っている。
常夜灯のような明るさの中、三十段ほど下ったところで階段が終わっていた。
そこは小さな踊り場のような空間である。
ただし目の前にある石壁には両開きの金属製扉がついていた。
「この奥にエリアボスがいる可能性が高いわ」
少し調子を取り戻した女性講師が扉に触れながら言う。
「そうね、私が先に中に入って確認するわ。リーちゃんは援護をお願い」
「承りましたわ!」
「じゃあ行くわよ」
両開きの扉の片方を奥に押しこんで開ける。
少し開いた隙間から、女性講師が奥をのぞきこんだ。
「うん、大丈夫ね」
どうやらエリアボスがいる場所と直結していなかったようだ。
扉を開けて中に入ると、そこは荘厳な神殿のような雰囲気であった。
かなり広く、開けた場所でもある。
古代ギリシャの神殿に見られるドリス式に似た柱だけが、広い空間に整然とならんでいる。
柱の中央部分に膨らみをもたせて、見上げたときにまっすぐに見えるというものだ。
その柱の奥には、禍々しいデザインの玉座が設えられていた。
おじさんたちがその光景に魅入られていると、パチンと指をスナップさせた音が聞こえる。
ボッ、ボッ、ボッと淡い光を放つ柱の上端に、ドクロの形をした黒色の炎が灯っていく。
『よくぞ、きた』
いつの間にか玉座に腰掛けている骸骨がいた。
斜めになった王冠を被り、黒地に金縁の装飾という豪奢なローブを羽織っている。
『我が輩は魔導の神髄を究め……』
【
トリスメギストスの宝玉が輝き、神聖魔法が放たれた。
それはアンデッドに対しては天敵ともいえる魔法である。
しかもおじさんの膨大な魔力によるブーストも得ていたのだ。
『うぼあああああ』
結果は推して知るべしであった。
哀れなエリアボスは自己紹介もできないまま崩れ落ち、灰へと変わってしまう。
「トリちゃん!」
『我はデキる子であろう?』
おじさんの怒気に気づかずに、どやっという声で応えるところがデキない子なのである。
つまり空気を読めないのだ。
ただ魔導書に空気を読めというのも酷な話かもしれないが。
「
『ちょ、主いいいいいい!』
やる気を見せたかったトリスメギストスだが、またもや空回りしてしまったのだ。
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