第42話 おじさん魚心あれば水心あり
「あーちょっといいかー?」
おじさんがお手製の魔道具を配り終えたところで男性講師が声をかけてきた。
「なんでしょう?」
「このあと学園長室に行くんだが、ついてきてほしいんだー」
そうなるだろうな、とおじさんも思っていたので快く了承する。
この場で詳しい話をするよりも、対面で話した方が齟齬がなくていいと思っていたのだ。
講師の方から持ちかけてくれるのなら渡りに船である。
「すまんなー。じゃあお前らは教室に戻ってろー。あとは自習だからなー。調子に乗って使い魔喚びだすなよー」
ということで男性講師の後ろについて、おじさんは学園長の部屋を訪れた。
学園長とは入学の式典で顔をあわせただけである。
今回は王太子が入学するとのことで、事前に入学の挨拶は彼にとの打診があった。
それはカラセベド公爵家で対処していたのでおじさんには結果が告げられただけである。
だからこれまで顔をあわせる機会がなかった。
ちなみに野営訓練のときに交渉の窓口だったのは男性講師である。
禿頭に白髭千丈。
人の良さそうな好々爺が学園長室の椅子に座っていた。
ゆったりとしたローブ姿だが、威厳に満ちあふれている。
部屋の隅には拳大の宝珠がついた杖が飾られていた。
「学園長、報告に参りました-」
男性講師を一瞥してから、学園長がおじさんに目を向ける。
「リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワか」
「お初にお目にかかりますわ、学園長。いえ、ウナイ=コージケ・サムディオ=クルウス様」
学園長は三公爵家のひとつであるサムディオ家の先々代当主になる。
現役時代は王国の魔導師で筆頭を務めるほどの実力を持っていた人物だ。
おじさんの華麗なカーテシーに学園長が頬をゆるめる。
“ほっほ”と笑顔で応対してくれた。
男性講師が学園長に事のあらましを報告していく。
例年どおりに使い魔契約が終わったことを皮切りに、おじさんがやらかしたことを話す。
そしておじさんがもっとやらかしたことで報告を終える。
その間、学園長は自慢の白髭を手でしごきながら目を細めていた。
「リーと呼んでもよいか?」
“ご随意に”とおじさんが答える。
「ではリーよ、
おじさんは大きく首肯して、声をかける。
「
中空にキラキラとした召喚魔法陣が描かれて、ズズズと総革張りの本が姿をみせた。
契約前にあった鎖はなくなっている。
表紙に埋めこまれた宝石が静かに輝いた。
『何用かな、我が主よ』
「こちら学園長ですの。先ほどの件で説明をしているところですわ」
「これは……スゴいもんじゃな。触れてもよいかの?」
『断る! 我に触れていいのは主だけだ』
「ということですわ。学園長、申し訳ありません」
“ふむぅ”と学園長は髭をしごいた。
「仕方あるまい」
とは言うものの、学園長が諦めきれていないのは表情からもあきらかだった。
「学園長ー、今は召喚魔法のことを話すべきかとー」
「バーマン卿の言うとおりじゃな」
男性講師はパーヴォ・バーマンという男爵家の当主である。
元々は子爵家の三男であったのだが、高位の冒険者となったのだ。
また冒険者時代の功績から、現在は実家から独立した法衣男爵家の当主となっている。
「では説明させていただきますわ」
ここからはおじさんが主導権を握った。
その知識で宝珠に錬成魔法を使ったことをである。
「なるほどのぅ。ではそれをワシが開発したことにせよ、ということかの?」
「さすがですわ。話が早くて助かります」
「生徒たちへの口止めはー、契約魔法を使ってますー」
「手柄を横取りするようで気が引けるがそうも言ってられんものだな。ワシに万事、任せるがいい。ただ……」
「わかってますわ。学園長にもお渡しいたします」
魚心あれば水心ありである。
おじさん、きっと言われるだろうなと思っていたのだ。
学園長の目の前で宝珠に召喚魔法を刻みこむ。
それを渡して、とりあえず解散ということになった。
国王への報告は学園長からしてくれるとのことで、一件落着したのである。
「いい茶飲み友だちができた。これからはちょくちょくきてもらうかのう」
最後に不穏な学園長の言葉があったが、おじさんは気にしないことにした。
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