第43話 おじさん使い魔とお話する



 学園長の部屋から出て、男性講師とともに教室へと戻る。

 おじさんはその間も、実はひとつのことで頭がいっぱいだった。

 それは念願のもふもふを手に入れることである。


 しかしその前にまだやらないといけないことがあった。

 それは契約した使い魔との対話である。

 そして大事なのが名づけだ。


 使い魔に名前をつけることで、契約者と使い魔の絆を深めることになるのだ。

 契約を結んだ段階では友だちになったくらいである。

 それを名づけすることで家族になるくらいの違いがあるのだ。

 より深く絆を結ぶことで、より使い魔の持つ力を引きだせる。


 ただし適当に名前をつけたところで、そうした効果は得られない。

 先ずは使い魔と対話することで重要で、ある程度の絆ができてから名づけへと進むのである。


 ということを男性講師が道すがら話してくれた。

 

「ちなみに先生の使い魔の名前はなんて仰いますの?」


「あー、アレだ。あれはサプイールというんだー」


 どこか恥ずかしそうに頬をポリポリと掻く男性講師であった。

 響きがどこか愛らしいのが恥ずかしいのであろう。

 しかし、恥ずかしがる要素があるのかと首を傾げるおじさんであった。


 教室へと戻って、男性講師が指示を出す。

 さすがに釘を刺されたからか、クラスメイトたちがはしゃいでいる様子はなかった。

 ただ誰もがうずうずとした様子を見せている。


「じゃあー、使い魔を喚びだして対話してみろー」


 使い魔と契約できた者たちは、お預けされていたからかすぐに喚びだしていた。

 おじさんが召喚魔法を刻んだ宝珠を渡した者たちも魔力をこめている。


 そんな様子を見ながら、おじさんも万象ノ文殿ヘブンズ・ライブラリーを喚びだした。


 空気が弾けるような音を立てながら、総革張りの本が中空に出現する。

 その瞬間だった。

 クラスメイトたちの使い魔がいっせいに姿を消したのだ。


「あーそうなるかー」


 男性講師が額に手をあてる。


「リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワー。もう帰っていいぞー」


「はへ?」


 間抜けな声をだしてしまうおじさんである。

 そんなリー様も愛らしいと女子組の何人かが頬を染めた。


万象ノ文殿ヘブンズ・ライブラリーがいるとー、使い魔たちが萎縮するみたいだー」


 そういうことかと納得したおじさんである。

 恐らく万象ノ文殿ヘブンズ・ライブラリーも出現するときに演出していたのだ。

 それがあの音なのだ。


「かしこまりました。それでは早退させていただきますわ」


「おうー。こっちでうまいこと処理しとくからなー。帰ってもちゃんと対話しろよー」


 ということで女子組に見送られて帰るおじさんであった。

 聖女だけはきぃぃとハンカチでも噛みそうな勢いでおじさんを見ていたが。


 公爵家の王都別邸に戻ってきたおじさんは、護衛の騎士たちに告げてそのまま裏庭へと直行した。

 そして人払いをしてもらうことも忘れない。

 念のために設置しっぱなしになっているログハウスに入って、おじさんは使い魔を喚びだした。


『状況は把握しているつもりだ、我が主よ』


「それはありがたいのですが、何をどう話せばよろしいのかわかりませんわ」

 

『いやその前に我から話があるのだ』


「なにかしら?」


 “うむ”とためてから万象ノ文殿ヘブンズ・ライブラリーが話をはじめた。


『我が主よ、我は主上から申しつけられて此度の召喚に応じたのだ』


「さきほども仰ってましたわね。その主上とはもしかして女神様ですか?」


『そのとおり。主上は詫びもかねて我を遣わした』


「詫び……ですの?」


『我が主が女の身で生まれたことだそうだ』


 万象ノ文殿ヘブンズ・ライブラリーの話によると、女神様が張り切りすぎたとのことだった。

 その神力の影響もあって肉体が女神様の力の影響を大きく受けたそうだ。


「理由は理解しました。女神様のお心遣いにも感謝いたします。でも、もう気にしておりませんわ」


『主上もその言葉を聞けて安堵しているはずだ』


 そうなのだ。

 おじさんは当初こそ美少女に生まれたことを呪った。

 だが早い段階でふっきっていたのである。

 悔やんだところで仕方がないからだ。


 こうした切り替えの早さは前世でつちかったものである。

 切り替えないとやっていけなかったおじさんの悲しい習性なのだ。


『では本題に入ろうか』


 万象ノ文殿ヘブンズ・ライブラリーが威厳に満ちた低音ボイスでそう言った。


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