第39話 おじさん使い魔ガチャをひく



 男子組の使い魔ガチャが終わった。

 王太子とその取り巻きたちは全員契約に成功し、残る四名の男子たちは残念ながら契約はかなわなかった。

 仕方のないことだとはいえ、男子たちはうなだれてしまう。


 確率としては六割なのだから、随分と良い結果に終わったのだろう。

 そして女子組のガチャへと移っていく。

 女子組もなかなかの高確率で使い魔たちと契約できている。

 それでも全員が契約できるわけではない。


 残念ながら契約できなかった女子たちもいた。

 そんな女子たちをおじさんは励ましながら、おじさんは自分の番がくるのを待つ。

 おじさんが欲しいのは、もふもふである。


 男子たちは下級の精霊たちと契約していたのでヒト型ばかりだ。

 もちろんそれが悪いわけではない。

 愛らしい姿をした精霊たちが一緒にいてくれるのは嬉しいことなのだろう。

 女子組の中にも精霊と契約した者がいた。


 聖女もちゃっかりと天使のような外見の使い魔をゲットしている。

 

 そしてアルベルタ嬢の順番が回ってきた。


「いってきますわ、リー様」


「御武運をお祈りしますわ、アルベルタ嬢」


 短く言葉を交わしてアルベルタ嬢を送りだす。

 どうか彼女にも契約できる使い魔がきますように、とおじさんは祈った。

 その祈りがつうじたのかはわからない。


 アルベルタ嬢は精霊獣との契約ができたのだ。

 おじさんが狙っていた白天狼と同じく、白くてふわふわのウサギ型の使い魔である。

 “きゅきゅ”と高い声で鳴く姿は愛らしかった。

 もこもこでふわふわである。

 

「やりましたわ!」


 アルベルタ嬢も自身の使い魔が気に入ったのだろう。

 満面の笑みで帰ってきた。


「つぎー。リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワー」


 おじさんの出番である。

 あまり緊張することがないおじさんではあるが、このときばかりは緊張していた。


 ふわふわのもこもこが欲しい。

 マルちゃんの姿をイメージしながら、おじさんは刻印召喚陣の中心に立つ。


 ドキドキと高鳴る鼓動を抑えるように深呼吸をする。

 どうかマルちゃんがきますように。


「いきますわ!」


【使い魔・召喚】


 刻印召喚陣におじさんの魔力が行き渡っていく。

 結界が展開されると、淡く美しい光が放たれた。

 幾何学な刻印召喚陣が花が咲くように色づいていく様子は幻想的な光景であった。


 おじさんを中心として七色の光を放つ魔法陣。

 淡い光に照らされて、おじさんの髪がふわりと浮く。

 その光景に場にいた全員が目を奪われてしまう。


 おじさんから少し離れた場所に光が集まり、渦をまく。

 そして、召喚陣に一冊の本が出現した。


 古びた本である。

 総革張りの表紙には透明な宝石が埋まっていた。

 特異なのは本が開かないようにか、鎖がまかれていることだ。

 

「なんだ、ありゃあー」


 男性講師が警戒を最大限に使い魔とともに戦闘態勢に入る。

 それと同時に宝石が虹色の光を放ち、渋い老人の声が結界内に響いた。


『我は万象ノ文殿ヘブンズ・ライブラリーである』


知性ある神遺物インテリジェンス・アーティファクトだとー!」


 知性ある神遺物インテリジェンス・アーティファクトはこの世界において御伽噺のアイテムである。

 実在するとはがんぜない子ども以外は考えないものだ。

 それが目の前に出現した。


 おじさん以外はその神話的な光景に完全に呑まれてしまう。


『そなたの魔力を対価に下部しもべとなろう』


 その言葉を聞いたおじさんはカッと目を見開いた。


「やり直しを要求しますわ!」


 おじさんはブレないのである。


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