第38話 おじさん使い魔ガチャを見学する



 学院の地下にある刻印召喚陣がある部屋は大きい。

 おじさんの感覚だと体育館くらいの広さはあるのだ。

 つまりクラス全員が入っても狭さを感じることはない。


 男性講師が刻印召喚陣の前に立ち、生徒たちがずらりとならぶ。


「全員いるなー。これから召喚の儀式をする。事前に説明したが確認しておくぞー」


 講師の説明はシンプルなものだ。

 刻印召喚陣の中心部に立って、トリガーワードを唱えて魔力を流すだけ。

 このクラスに在籍する者なら全員ができることだ。



 刻印召喚陣が起動すれば、まず陣全体に結界が展開される。

 次に魔力に呼応して召喚がなされるのである。

 そこから契約にまでこぎつけられるかは、運も関係してくるのだ。

 なぜ運なのか。


 それは召喚された存在に気に入られるかどうかの問題だからだ。

 なにをもって気に入られるかはまさに運次第である。

 ある学説では魔力の波長によって判断されるともいわれているのだが真偽は不明だ。


「ちなみにーこれがオレの使い魔な」


 男性講師の足下から少し離れた場所に魔法陣が描かれる。

 これは召喚魔法を発動させたサインだ。

 クルクルと魔法陣が平面回転して、姿を現したのは小さな翼の生えた蛇であった。

 

 体長は一メートルほどで、愛らしいくりっとした目をしている。

 体色があざやかな瑠璃色なのも相まってかわいらしい。

 小さな翼をパタパタとはためかせて、男性講師の首元に巻きつく。


「契約できたら、こんな感じだなー。まぁ契約できなくても仕方ないぞー。こればっかりは運だからなー」


 男性講師がひとりずつ名前を呼んでいく。

 おじさんが在籍するクラスは男子が十人、女子が十五人である。

 若干だが女子の方が多い。


 男子から先に召喚の儀式をスタートさせていった。

 最初の男子は低級の小悪魔を喚んだが契約にはいたらず、がっくりとうなだれている。

 契約されなかった場合、喚ばれた存在は自動的に送還される仕組みだ。


「つぎー」


 男性講師が次々に男子生徒を送りだしていくが契約にはいたらない。

 そんな中、王太子の名が呼ばれる。


「殿下、御武運を!」


 取り巻きたちが唱和している。

 

 王太子が刻印召喚陣を起動させた。

 これまでよりも大きな光が辺りを包む。

 取り巻きたちから“おお”と感嘆の声がもれる。


 召喚陣に姿を見せたのは鈍色に光る鎧姿の精霊だった。

 騎士のような金属鎧に抜き身の剣を持っている。


「我が魔力を対価に契約を望む」


 王太子の宣言に騎士精霊が跪いた。

 その瞬間に刻印召喚陣が光が放たれる。


「おー、契約できたなー」


 男性講師の声に取り巻きたちが歓声をあげた。


「はい、つぎー」


 そんな取り巻きたちの様子を一向に意に介さず、男性講師は名を呼んだ。

 赤髪の小僧が肩で風をきるように前へと進んでいく。


「殿下、おめでとうございます」


 “うむ”と鷹揚な態度の王太子にイラッとくるおじさんであった。

 王太子に一礼してから、赤髪の小僧が刻印召喚陣の中へと足を進める。


 結局のところ、取り巻きたちは全員が使い魔と契約できた。

 低級の精霊種だが、契約できたことは素直に喜ばしいのだろう。

 

 ただ自分たちだけで盛り上がるのはなぁとおじさんは思う。

 ダメだった他の男子組に気づかいくらいすればいいのに、と。


 上に立つ者こそ気づかいが必要となる。

 それはおじさんの経験からくる思いであった。


「これは教育案件ですわ」


 おじさんがぼそりと呟く。

 その言葉が聞こえていたわけではないのだ。

 ないのだが王太子たちは、悪寒に襲われて“ひぃ”と悲鳴をあげることになった。

 ただ青色だけは“ありがとうございます”と叫んでいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る