第37話 おじさんもふもふを手に入れることを決意する
おじさんが王太子たちを調教してから数日が経過していた。
学園はいよいよ本格的な指導へと入っていく。
そもそも野営訓練まではオリエンテーション期間みたいなものだったのだ。
野営訓練までの結果でクラス分けも行われている。
おじさんは成績優秀者を集めたクラスに在籍していて、級友にはアルベルタ嬢もいる。
そもそもおじさんの周囲に集まっていた女子組はほぼ級友だ。
聖女も同じクラスになっている。
王太子たちも同じクラスだが、おじさんとは距離を置いている。
あの一件が尾を引いているようだ。
しかしおじさんはまったく気にも留めていない。
そんな訳ありのクラスだが、講義そのものは順調に進んでいた。
講義のレベルも高いため、ついていくので精いっぱいという生徒も少なくない。
おじさんが学園に失望していたのは早計だったと言えるだろう。
「えーそれじゃー今日は使い魔を召喚するぞー」
妙に間延びした話し方の男性講師である。
かつては凄腕の冒険者であったという経歴持ちだ。
そのためか細身ながらも筋肉がしっかりとついている。
風体としてはどこか不審者的なものがあるのだが、それは灰色の前髪で目が隠れているからだろう。
「地下にある刻印召喚陣まで歩くぞ」
男性講師がのそのそと歩き出す。
それに続くようにおじさんたちも席を立った。
アメスベルタ王国にある古代遺跡のひとつが刻印召喚陣である。
端的にいえば召喚魔法を床に刻印したものだ。
言葉にすればシンプルだが、現在も実現できていないロストテクノロジーである。
この刻印召喚陣にトリガーワードとともに魔力を流すと、使い魔となるべき存在が召喚される仕組みだ。
生涯に一度だけ引けるガチャだと考えていい。
いわゆる魔物と呼ばれる存在から滅多に姿を見せない精霊種など、人によって召喚される存在はちがう。
喚びだされた存在と契約できれば使い魔となるわけだ。
ただ契約できるかどうかは実力や運が関わってくる。
「使い魔……ですか」
アルベルタ嬢が誰にともなく呟いた。
使い魔は上位の魔法使いになるために必須といわれている。
というのも上位の魔法使いで使い魔を持たない者はいないからだ。
逆に使い魔と契約できる者だから、魔法使いとして上位になれるのかもしれない。
この卵が先か、鶏が先か的な問題は学会でも紛糾する話題である。
ちなみにおじさんにとって使い魔はなじみのある存在だったりする。
なぜなら小さい頃は母親の使い魔がつきっきりだったのだ。
母親の使い魔は天白狼という精霊獣である。
一言でいえば白いもふもふの大きな狼だ。
天を駆け、雷を操る。
ものすごく強い使い魔だと母親は言っていた。
マルガ・リートゥムというのが正式な名前で通称はマルちゃんである。
幼い頃のおじさんは舌が回らなかったのだ。
アルベルタ嬢の使い魔という言葉を聞いて、おじさんはマルちゃんのことを考えていた。
最近はあまり会っていないのだ。
母親いわくマルちゃんは子どもがお腹にいるらしい。
もうそろそろ生まれるのだ、と。
そういう理由もあって、あまり召喚していないのだ。
おじさんは前世でペットを飼うなんて贅沢はできなかった。
なので使い魔と契約できるのなら、もふもふがいいとずっと考えていたのだ。
その機会が巡ってきたのである。
このチャンスは逃せない。
おじさんは密かに拳を握っていた。
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