第36話 おじさん契約魔法を使う
たしん、たしん、と短鞭が壁が叩く音がする。
王太子がひとり前にでて、取り巻きたちは後ろで横にならんで正座していた。
いや、させられていたのだ。
おじさんに。
「……ということですわ。理解されましたか?」
おじさんは懇切丁寧に教えていたのだ。
王妃の毒殺未遂事件がどれだけ厄介な案件かを。
場合によっては国が割れる、それほどの問題なのだとわからせたのである。
学園内で噂になるような呼び出しをし、部外者である取り巻きを同席させた。
それがどういう意味か、これで理解できたはずだ。
おじさんはそう考えていた。
「理解はした。しかしリーよ、やはり私は……」
たしん、と音が響く。
“ひぃ”と悲鳴をあげながら王太子が尻を手で隠している。
クールぶっている青色はちょっと顔を赤らめていた。
彼は新しい世界の扉を開いたのかもしれない。
「だから! 何度も申しておりますでしょう。その者たちの実家が手引きしてる可能性もある、と」
「だから! 私はだな、この者たちを!」
「殿下が信用されているかどうかは関係ないのですよ。可能性の問題ですわ。それがハッキリするまでは誰にも話すなと申しておりますの。それとも疑っていたことを後から謝罪したとして関係が壊れてしまうのなら、それは本物ではありませんわ」
「だが……」
「国を治めるということはきれいごとだけでは務まりませんのよ。その覚悟がないのであれば王太子の座を返上すべきですわ。この国に住まう民たちすべてに迷惑をかけますから」
「そ、それは!」
不敬であるとの言葉を赤色は飲みこんだ。
先ほど嫌というほど身体にわからせられたのである。
躊躇するのは無理もないことだろう。
治癒魔法と併用して痛みを与えてくるのだ。
おじさんは。
女神のごとき微笑みをうかべ、魔神のような責め苦を与える。
それを形容すべき言葉を、この場にいる男子連中は持っていなかった。
ただただ恐ろしいなにかであったのだ。
「あなたたちも同様ですわよ。わかってますの、赤・青・緑・紫・茶色」
「い、色で呼ばないでくれるかな?」
絞りあげられたような声で赤が答えるも、おじさんは無視する。
「よろしいですか? 王妃陛下の毒殺未遂事件についてあなたたちは自分たちが知り得た情報は外に漏らしてはいけません。それは家族であってもです」
おじさんはパンと音を鳴らして柏手を打つ。
「もしこの約束を破ったときには、二度と口が開かなくします。わかったのなら声にだして了承を」
その言葉に渋々ながらも王太子と取り巻きたちが、口々に了承の意を示す。
【契約・締結】
それは契約魔法と呼ばれるものだ。
おじさんのだした条件に対して了承したのをもって神との契約をしたことになる。
「ちょ、待てよ」
王太子が気づいて声をだす。
「契約魔法なのか、いまのは?」
「そのとおりですわ」
「もし破ったら口が開かなくなるのは本当に?」
「もちろんですの」
おじさんの笑顔に王太子たちの顔から色が消えていく。
いまさらながらに事の重要さが理解できたようだ。
やはりこうした輩には口で言うよりも、実力行使のほうがわかりやすいのだろう。
おじさんは頷きながら、王太子たちを見る。
「よろしいですわね? それでは失礼いたしますわ」
華麗な一礼をしておじさんはサロンを後にしたのである。
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