第33話  おじさん学園に復帰する



 結局のところ。

 王妃はお茶だけではすまず、夕食まで公爵家でとってから帰っていった。

 お泊まりすると駄々をこねたのは内密の話である。


 そんな王妃をなだめるため、おじさんがいくつかの家具を提供した。

 特に王妃が気に入っていた天蓋付きのベッドは喜ばれたのである。

 ちなみに王妃にも宝珠次元庫が提供された。

 母親の新しい魔道具だとして、おじさんの名前はださないことにして。


 バタバタとした休暇だったが、おじさん的にはゆっくりできたと思っている。

 明日からは学園に復帰するのだと思うと、少しだけわくわくしていた。

 思いのほか学園生活を気に入っていたみたいだ。

 おじさんにとっても、そんな気持ちを抱くなんて意外なことだと思っていた。


 翌日。

 妹が王妃のようにごねた。

 血のつながりを感じざるを得ないごね方である。


「ねえさま、いっちゃやだ!」


 とは言ってもおじさん公爵家から通っているのだ。

 夕方になれば帰ってくると言っても妹は聞かなかった。

 野外訓練で数日離れた。

 さらに王城へ行ったと思えば、疲れ果てて眠った状態で帰ってくる。

 おじさんのそんな行動が妹に不安を与えていたのだ。


 そこでおじさんの奥の手のひとつが火をふいた。

 こんなこともあろうかと暇をみて作っていたぬいぐるみである。

 かわいらしくデフォルメされた犬と猫のふたつだ。


 それを見た妹は泣きやむ。


「ねえさま、ちゃんとかえってきてね」


 おじさんが妹と弟の頭をなでる。

 弟妹の腕の中にはぬいぐるみがおさまっていた。



「リー様!」


 学園に姿を見せると、アルベルタ嬢が駆けよってくる。


「お元気そうでなによりですわ!」


「ごきげんよう、アルベルタ嬢」


 二人で並んで教室へと足を進めていく。

 おじさんたちのクラスは成績優秀者たちが集められている。

 当然だが王太子や聖女も同じ教室だ。


 おじさんが教室に姿を見せると、教室の中が少しだけざわめく。

 女子たちが次々と挨拶にやってきたのだ。

 笑顔で応対しつつ、おじさんは自分の席についた。


 そこへ王太子が現れる。

 王太子がツカツカと靴音を鳴らして、おじさんのもとへと歩み寄ってくる。


「おはようございます」


 おじさんは無難な挨拶をした。


「昼食後でいい。サロンへきて欲しい、話がある」


 サロンとは食堂棟の上階にある部屋のことだ。

 婚約破棄かしらん、とおじさんの頭に不穏な言葉がよぎる。

 それはないと理解しているが、どうしても考えてしまうのだ。

 十中八九、王妃様のことだろうとおじさんはあたりをつけて頷いた。


「かしこまりましたわ。昼食後に伺います」


「頼む。ああ、ともはなしだぞ。内密な話だからな」


 なぜそれを公衆の面前で言うのだ、とおじさんはがっかりする。

 どれほど自分たちが注目を集めているのか理解できていないのか、とも。

 そんなことを言えば、令嬢たちがどんな妄想をするのか。


 そもそも王妃様の件であれば、おじさんこそが当事者である。

 なので内密な話であることくらい重々承知しているのだから、言われずともひとりで行く。

 その辺の機微がなぜわからないのか。


 年齢的にはそんなものなのだろうか。

 いやしかし。

 おじさんは複雑な思いを抱きながら、“承知しました”と返すのであった。


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