第31話 おじさん王妃様と母親とイチャイチャする



「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました」


 カラセベド公爵家にある最高級の応接室に侍女の声が響いた。

 アメスベルタ王国でいうお茶とは、英国式のアフタヌーンティーである。

 お茶とお菓子に加えて軽食までついてくるものだ。

 

 そしておじさんも気になっていることがひとつある。

 食料事情が豊かな国なのだが、どう見てもケーキが豊富なことだ。

 特におじさんが驚いたのがイチゴののったスポンジショートケーキである。

 英国式でいえばビスケット生地のハズと疑問を持ったのだ。


 時代設定と世界観がごちゃまぜ。

 おじさんがそう思っても仕方がないだろう。


 なぜおじさんがアフタヌーンティーに詳しいのか。

 それは前世での経験によるものである。


 寄せ木細工と象嵌で公爵家の家紋が入ったテーブルの上に、侍女によってきれいにお茶と三段スタンドがセットされていく。

 サンドイッチがあるべき場所に、チーズとハチミツのピザがあるのはご愛嬌だろうか。

 いつもながらの淀みない動きに、おじさんが感心していると声がかかった。


「リーちゃん、このテーブルもあなたが?」


 王妃の問いにおじさんは小さく頷いた。

 

「ズルい! ズルいわ! ヴェロニカちゃん、リーちゃんをうちの子にくださいな!」


「ダメよ、姉様! リーちゃんはうちの子ですぅ!」


「うちの子、おバカなんだからいいじゃない!」


 王太子、言われてるぞ。

 おじさんはこっそりと含み笑いをもらしつつ、お茶を飲む。

 今日も美味しい。


 母親と王妃の姦しい会話が続く。

 どうも母親がチーズとハチミツのピザを自慢しているようだ。

 完全に王妃で遊んでいる。


 ひとしきりの会話が終わったのだろう。

 王妃がキリッと顔を引きしめた。


「リーちゃん、命を救ってくれてありがとう。心からの感謝を」


 スッと立ち上がったかと思うと、深々と膝を折ったカーテシーを見せる王妃だ。

 さすがにその姿には気品があふれていた。


「い、いえ。だって伯母様なのですもの、当然のことをしたまでですわ。それに……」


「それに?」


 母親がニヤニヤとした顔で問うてくる。


「困っている人を見て見ぬふりなんてできませんわ!」


「リーちゃん!」


 王妃に抱きつかれてしまった。

 おじさん、この手のスキンシップには弱いのである。

 前世でされた覚えがないからだ。


 顔がほてるのがわかる。

 とは言え、王妃を引き離すのもためらわれた。


「姉様、うちのリーちゃんが困っているから離してあげて」


「もう! 仕方ないわね」


 王妃が離れたことで、おじさんはホッとひと息である。


「ところで姉様、本当の目的はなんですの?」


「リーちゃんにお礼がしたかったのも本当の目的なんだけど……」



 母親がぢっと王妃を見つめる。

 少しの沈黙のあと、王妃が小さく咳払いをした。


遠大なる死毒グランド・フィーバーのことで、リーちゃんにも伝えておくことがあるの」


 そう切りだした王妃の顔はこれまでになく真剣なものであった。


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