第30話 おじさん王妃様と仲良くなる



 病み上がりの王妃を外の庭で歓待するのはさすがにマズい。

 そう思ったおじさんは、さりげなくアドロスに最上級の応接室へととおしてもらう。

 こちらの方が落ち着ける……だろうと思ったわけだけど。


 なぜかおじさんが提供した家具がいくつか応接室に設えてあった。

 確かに要求される数が多いなとおじさんは思っていたのだ。

 だがまさかこういうかたちで使われるとは予想外である。


 おじさんはチェスターフィールドソファーが好きだ。

 総革張りで鋲飾りがあり、ボタンどめが使われているものである。

 重厚感がある作りで、見た目にも美しいのだ。

 ロックバンドのアーティスト写真とかでよく使われているソファーだとイメージしやすい。


 前世では高額すぎて手が出なかった家具を、こちらの世界でおじさんは作りまくっていた。

 おじさんの母親は魔道具開発で王城にいたのだ。

 現在でも趣味として魔道具の開発をしていることもあり、公爵家には山のように素材が揃っている。

 その素材を使っておじさんは錬成していたのだ。


 チェスターフィールドソファー以外にも、おじさんは練習とばかりに様々なタイプの家具を作っていた。

 母親が特に気に入っていたのがロココ調の家具である。

 やわらかい曲線がかもしだす優美さを気に入ったらしい。

 祖母はロココから派生した、クイーン・アン様式の家具がお好みだった。


 チェスターフィールドソファーは、総革張りなので最初は座るとかたい印象をうける。

 しかしおじさんの錬成魔法はその点も考慮して作っているのだ。

 使いつづけることでなじんでいき、その人専用とも言える座り心地になるのが魅力な点も理解している。

 だからこそ最初の座り心地をよくするのにとどめるのが、おじさんなりのクオリティだった。


 ちなみに元々の家具はゴシック様式に似たものである。

 建築のデザインが家具に転用されたのがゴシック様式なのだが、なぜかこちらでは家具だけがあったのだ。

 重厚感のあるデザインは好きなのだが、いかんせんクッションがないので座り心地がさほどよくない。

 そこでおじさんは同じ重厚感のある系統で、自分の好きなチェスターフィールドソファーを作っていたのだ。


「なにこのステキなソファー」


 王妃が目を丸くして驚いている。


「いいでしょう? うちのリーちゃんが考えて作ってくれたのよ」


 母親がどや顔をして自慢すると、王妃の目がおじさんを捉えた。


「リーちゃん、うちの子にならない?」


 王妃がとんでもないことを言いだす。

 いやその前に、不本意だがおじさんは王太子の婚約者なのだ。

 現状だとその内そうなるだろうに。


「ダメよ、姉様。リーちゃんはうちの子です」


 ぎゅうと母親がおじさんを抱きしめる。


「とりあえず落ちつきませんか?」


 苦笑いを隠さずにおじさんが着席を促した。

 ゴージャスな見た目の王妃に、一人がけのチェスターフィールドがよく似合う。

 赤っぽい飴色をした独特の風合いが、王妃のきらびやかな雰囲気を引き立てていた。


「ねえ、ヴェロニカちゃん。このソファーとっても座り心地がいいんだけど、いくらで売ってくれる?」


「うちの商会から売りにでるんじゃないかしら? お義母様もノリ気だったし」


 “むぅ”と王妃様が黙りこんでしまう。

 その様子を見て、おじさんは母親に目を向けた。

 プレゼントしてもいいんじゃないのって意味で。


 正確におじさんの意図を把握しつつも、母親が目配せで返してくる。


 “もうちょっと黙ってなさい”と。


 どうやら王妃と遊びたいらしい。

 おじさんは母親の目配せに対して、“ほどほどに”という意味で笑顔を見せた。


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