第29話 おじさん元気な王妃様と会う
おじさんはちょっとした休暇を楽しんでいた。
昼下がり、弟妹たちは習い事をしている時間である。
おじさんは母親と一緒に庭でお茶を楽しんでいた。
アフタヌーンティーというやつだ。
優雅な時間を過ごしていると、家令であるアドロスがスッと姿をあらわした。
「ご歓談中に失礼いたします。先ほど前触れがありまして、王妃陛下がこちらへおいでになるとのことでございます」
その言葉に“まぁ”と声をあげたのは母親である。
姉妹であるのだから嬉しいのだろう。
おじさんとしては、もう外出しても大丈夫なんだろうかという心配が大きい。
「手配は滞りなく」
できる家令のアドロスはスッと下がっていく。
「お母様、なにか用意をした方がよろしいのかしら?」
「気を張らなくてもいいわよ、リーちゃん。お姉様ったらお礼を言いにきたかったのだと思うの」
母親も祖父母から事情は聞いて知っている。
もちろんおじさんが解決したこともだ。
「でも本音はリーちゃんを見たいってところかしら?」
母親がウィンクをしながらお茶を飲んだ。
おじさんもその辺はおかしいと思っていたりする。
王太子の婚約者として決まっているのに、顔合わせをしたことがないなんて。
とは言え、だ。
おじさんは今生を振り返ってみるに、色々と忙しくしていたのも事実である。
前世の記憶を取り戻したのは、七歳のときにうけた神託の儀のことだ。
それ以前でも妹の年齢くらいには、既に習い事として読み書きや計算を習っていた。
おじさんとしての意識が戻ってからは、一層に加速したと言えるだろう。
そういう意味で王族と顔合わせができなかったというのもある。
いやそれにしても、と考えこんでいると母親に声をかけられた。
「リーちゃん、眉をしかめちゃダメよ。かわいいお顔がだいなしになっちゃうわ」
“ごめんなさい”と素直に謝るおじさんである。
そこへ家令であるアドロスが戻ってきた。
「王妃陛下がそろそろご到着されるそうですのでお出迎えをお願いいたします」
母親と二人そろって正門のところまで歩いていく。
一台のゴーレム馬車がすべりこんでくるタイミングだった。
「あら? さっそく使ってらっしゃるのね」
おじさんが王家に献上したゴーレム馬車である。
さすがに王家と言うべきか、既に紋章まで入れてあるとは仕事が早い。
護衛の騎士がドアを開けると、飛び出すようにご婦人が姿を見せる。
豪奢な金髪が真っ赤なドレス姿に映えていた。
どこか母親と似た優しいまなざし。
そして豊かなお胸である。
「リーちゃん! 会いたかったわ!」
てててっと早歩きで近づいてくると、王妃がおじさんを抱きしめる。
スキンシップが激しいのも血筋なのだろうかと、おじさんは冷静に考えていた。
自分が妹にしていることは棚上げらしい。
「お姉様、お久しぶりですわね」
「ヴェロニカちゃんも会いたかったわ!」
母親と王妃の二人に挟まれるような格好になるおじさんである。
よくよく観察すると、まだ痩せ細っている。
しかし顔色はよく、体調が悪いのに無理をしているという印象はうけない。
とりあえず王妃の容態は問題なさそうだと、ホッとするおじさんであった。
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