第25話 おじさん筆頭薬師に認められる
魔法薬を錬成するのを生業にするのが魔法薬師である。
また魔法薬の効果を高めたり、新薬の研究したりとその活躍の幅は広い。
魔法のある世界ではあるが、そもそも治癒魔法の適性持ちが少ないのである。
そのため魔法薬には大きな需要があるのだ。
そんな王宮魔法薬師の筆頭を務めているのが、エバンス=グヘ・ボナッコルティである。
亜麻色の蓬髪を紐でしばり、丸眼鏡をかけた長身痩躯の中年男だ。
ボナッコルティ伯爵家の次期当主とは思えない見た目をしている。
しかしその見識は本物であった。
国王以下に挨拶をすますと、早速とばかりに筆頭薬師が口を開く。
「宰相閣下、指示のあった素材は既に用意してございます」
「すまないね、エバンス。ああ……キミには」
そこで言葉を句切って、宰相が国王たちに目で問う。
リーのことを話してもいいのかという意味だ。
宰相の思惑を察したおじさんが、いち早く声をあげる。
「むしろ筆頭殿にはご臨席いただくべきですわ。そうすれば次回から筆頭殿が作れますもの」
「いいのかい?」
宰相が改めて問う。
それは巨万の富を逃していいのかと聞いているのだ。
「かまいませんわ。このようなことは皆で共有すべき情報ですもの。個人のほしいままにすべきものではありません」
「リーの申すとおりにせよ。余がかならず報いる」
国王の威厳に満ちた声に宰相が頭を下げた。
「ではエバンス、ひとつ約束をしてくれないか。これから特級治癒薬を錬成する。同席することを許すが、王宮魔法薬師の研究成果としてほしい。それと彼女のことは他言無用だ」
宰相が発した言葉の意味をかみしめて、筆頭薬師が同意する。
魔法薬師、それも王宮に勤める者たちの筆頭だ。
特級治癒薬の価値を正確に把握している。
それゆえに同意するまでに時間がかかった。
「他人の上前をはねるのは矜持に反します。ですが王国のため敢えてその苦汁を飲み干しましょう」
“では”とおじさんが前に進む。
アクアブルーの瞳。
華奢な体躯。
青みがかった銀色の髪が揺れる。
まだ幼さの残る美しい少女が本当に特級治癒薬を錬成できるのか。
筆頭薬師の心に疑念があったのも事実だ。
「筆頭殿、少しお手伝いいただいてもよろしいですか?」
「私でよければ」
隣に立つと、美しい少女が微笑む。
【湧水】
おじさんが初級の水魔法を使って、二つのビーカーの中に水をためた。
上級薬草と魔力草を軽くもんでから、それぞれ別のビーカーに入れて火にかける。
「筆頭殿、ウーダの葉を乾燥させて砕いていただけます?」
“承った”と筆頭薬師が動く。
「火の大きさは弱火で、じっくりと抽出していきますの。決して沸騰させないように注意してくださいまし」
ビーカーの中の液体が上級薬草を入れた方が青く、魔力草を入れた方が薄い緑色に染まっていく。
「このくらいでいいですわ」
火をとめて、風魔法を使って粗熱をとっていく。
十分に冷めるのを待つ間におじさんは次の作業へ入った。
「次に月光蝶の鱗粉と
【錬成】
乳鉢の中で二つの素材が混ざり、光を放ちながら別の素材へと変わる。
おじさんの使う錬成魔法を間近で見た筆頭薬師が息を飲む。
彼は自分こそが国でいちばんの使い手であると自負していたのだ。
しかし、それはとんだ思いこみであったと理解できた。
いやさせられてしまったのだ、おじさんに。
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