第24話 おじさん国王の度肝を抜く
床に座りこんでしまったおじさんを見て祖父が叫んだ。
「リー! 大丈夫か!」
「ご心配なく。すこし疲れただけですわ」
息を整えながら、おじさんはにっこりと笑う。
それは大きな仕事をやり遂げた満足感からくるものだった。
王妃の身体の中から呪毒はすっかり消え去っている。
「お祖母様、念のために王妃様のことみていただけますか?」
“ん”と祖母が目に魔力をこめる。
少しの間、王妃の身体を見て大きく首を縦にふった。
「よくやったね、リー」
祖母に抱きしめられる。
どこか恥ずかしくてむずがゆいけれど、おじさんの胸はあったかいもので満たされた。
でもまだ終わりではないのだ。
おじさんにはすべきことがある。
半ば呆けている国王に目を向けた。
「伯父様、王妃様を侵していた呪毒は取り除けましたわ」
おじさんの言葉に国王が立ち上がって頭を下げる。
「リー、ありがとう」
「お言葉ありがたく。でもまだ終わりではございませんわ。仮にも神による呪毒をうけていたのです。王妃様の肉体はまだ回復しきっておりませんの」
おじさんは詳しく説明をした。
治癒魔法は身体にかかる負担も大きいのだ。
それも邪神の呪毒を解呪したばかりの王妃にはかけられない。
弱った身体を回復させるのなら、治癒薬を使った方がいいということを話す。
「なるほど、そこでさっきの用意してほしいものにつながるのか」
「そうですの。先ほどお伝えした素材を使って特級治癒薬を錬成いたします」
「特級治癒薬……」
またしても国王は絶句する。
それは国宝級の治癒薬になるからだ。
一般的に出回っているのは下級治癒薬や中級治癒薬である。
一部上級治癒薬も出回っているのだが、その数は非常に少ないのだ。
よって上級治癒薬のみ国家が管理することになっている。
そのさらに上の特級治癒薬ともなれば、推して知るべしなのだ。
王城にある宝物庫にすら、特級の治癒薬は確保されていない。
もはや幻ともいえるほど貴重な薬なのだ。
そもそもそんな貴重な薬を小娘が作れるのか、という疑問は誰も抱かなかった。
なぜならおじさんの神威を目の当たりにしたからである。
「大丈夫なのかい?」
祖母が心配そうな表情でおじさんを見る。
「もちろんですわ、お祖母様。お祖父様も心配なさらないでくださいな」
おじさんは祖母から離れて、ふんすと胸をはる。
「わたくし、こう見えてやればデキる子なんですから!」
おじさんの様子に、祖父母が吹きだす。
それに釣られるようにして国王も笑顔を見せる。
「陛下! アヴリルは! アヴリルは?」
部屋に転がりこむような勢いで宰相が戻ってきた。
「落ちつけ。万事リーが解決してくれたぞ」
国王の言葉に宰相がおじさんの方へ向き直った。
「ありがとう。心からの感謝を、我が姪に」
宰相が片膝をつき深々と腰を折って、右手の拳を胸にあてる。
それはアメスベルタ王国における最大限の礼の取り方であった。
「お母様の姉上なのですから、王妃様は家族も同然。わたくしは自分にできることをしたまでですわ」
にこりとおじさんが微笑む。
その様子を見ていた祖父が敢えて場の空気を変えた。
「ロムルス、王宮魔法薬師たちは素材を持っておったのか?」
宰相が礼の姿勢から立ち上がって答えた。
「幸いにも素材は揃っておりましたので用意させてあります」
「リー、いけるか?」
「もちろんですわ、お祖父様」
祖父が確認のために祖母に視線を送ると、静かに首を縦にふった。
「では皆でまいろうか」
国王の言葉とともに五人が王妃の寝室をあとにした。
向かうのは王宮魔法薬師たちの巣窟である。
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