第11話 おじさん野営訓練で釣りにいそしむ

 


 ミグノ小湖とはいってもそこそこの大きさがある。

 おじさん、実は釣りができるのを楽しみにしていたのだ。


 前世でのおじさんは釣りを実益で楽しんでいた。

 その日、口に入るのが釣った魚だけという時期もあったほどだ。

 

 釣った魚は食べる。

 スポーツフィッシングなどという貴族の遊びはしたことがなかった。

 リアルサバイバル生活の経験者は遊びで魚を釣らない。

 釣った魚は毒持ち以外は食べるのだ。


 おじさんなりのジャスティスである。


 そんなおじさんが釣りをする大義名分を得たのだ。

 張り切らないはずがないのである。

 ちなみにおじさんは海釣り専門であった。

 淡水魚の場合、遊猟券が必要だったからである。


 とはいえまったく知識がないわけではない。

 淡水魚釣りを令嬢たちがするのなら、のべ竿で十分である。

 のべ竿とはざっくりいえばただの棒だ。

 これなら壊されても、なくされても問題ない。


 棒の先に糸を垂らして針をつける。

 そこで出番なのが、おじさん特製の練り餌だ。

 練り餌はくっさいものと相場が決まっている。

 しかし魔法やらがある世界だ。


 おじさんは練っている間はフローラル、水につけるとくっさくなる練り餌を開発していた。

 なんでもデキちゃう系女子は強い。

 ということで、おじさんは釣りをする令嬢たちに竿を配って、餌の付け方なんかを教える。


 おじさんも湖面に糸をたらすと、さっそくのフィッシュ・オンである。

 そもそもこんなところまできて釣りをする酔狂な人間はいない。

 だから人になれていないのだ。

 まさに入れ食い状態で魚が釣れる。


 令嬢たちもキャッキャと楽しそうな声をあげていた。

 おじさんの竿にかかったのはニジマスに似た魚である。

 いいサイズの魚を釣り上げて、とってもいい笑顔を見せていた。


「ティッシュ・ポンですわー」


 と自然に親爺ギャグも飛び出すほどの上機嫌だ。


 その後も調子よく釣れ続け、日暮れまでしっかりと釣りを楽しんだのである。

 釣果はニジマスが三十匹に、うなぎが二十匹。

 漁といっても過言ではないレベルであった。

 こんなところでもおじさんのチートが炸裂したのである。


 ニジマスを魔法で作った氷でしめたおじさんは調理に取りかかった。

 エラを切って血抜きをする。

 サクッとさばいて塩を振っていく。


「リー様……しゅごい」


 どの令嬢が言ったのか。

 次々と魚をさばいていく公爵令嬢を見る目は尊敬に満ちている。

 下処理を終えた魚は、他の令嬢にも手伝ってもらってムニエルに仕上げていく。

 バターと香草のいい香りが辺りにただよう。

 

 そこへ森へ採取に向かっていた班が戻ってきた。

 成果はゼロであった。

 これまで碌に採取などしたことがない令嬢たちである。

 成果がなくても当然なのだ。


 しょんぼりとする令嬢たちに向かっておじさんはにっこりと微笑んでみせた。


「気にしなくてもいいのです。皆さん、よくがんばりましたね」


 その汚れた手や服装を見ればわかる。

 彼女たちは慣れないながらもがんばったのだ。

 おじさんの言葉に少なくない数の令嬢たちが、ほろりと涙をこぼす。


「やっぱり女神様だわ」


 採取班のリーダーであるアルベルタ嬢は、そっと涙をぬぐいながら改めて信仰を深めたのであった。


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