第10話 おじさん野営訓練でログハウスを建てる



 ミグノ小湖までの道のりは厳しいものがあった。

 やはり人の手があまり入っていない森の中、というのは歩きにくい。

 途中で聖女が足をくじくイベントがあった。


 大騒ぎをした果てに、王太子と取り巻きが背負っていくことになったようだ。


 “聖女なんだから癒やしの魔法を使えばいいのに”


 女子組の誰かが言う。

 ごもっともな話だとおじさんも頷く。

 聖女は癒やしの魔法と得意とするのだから。


 学生たちには困難な道のりを越えてミグノ小湖にたどりつく。

 さほど大きくはない湖だが、その景観は美しかった。

 “ほう”とおじさんも息を吐いてご満悦である。

 そんなおじさんの姿を見て、“尊い”と呟く女子組であった。


「ここで二泊するからなー。ちゃんと拠点を設営して、食料も自分たちで確保しろよー」


 意外とスパルタな学園である。

 ピクニックではなく、野営訓練なのだと改めて思わされた生徒も少なくなかった。

 しかしおじさんは何のそのである。


「皆さん、少し離れてくださる?」


 おじさんは湖畔でも少し高台になっている場所を土魔法で整地する。

 そこで先ほどとは違った色の宝珠を腰の袋から取り出した。


【宝珠次元庫・解放】


 おじさんが取りだしたのは二階建ての立派なログハウスであった。

 女子組全員の目が点になる。

 それに気づかず、おじさんはさらに自重を捨てるのだ。


【宝珠次元庫・解放】


 ログハウスの隣に何かしらの施設ができた。


【結界魔法・改】


 それらの施設に半透明の膜のような結界が張られた。


「準備ができましたわ。皆さん、中へどうぞ」


 おじさんはそう言いながら、先頭に立って歩き出す。

 女子組は何がなにやら理解できなかった。

 ただ“リー様はやっぱり女神様なのだ”と確信を深めていた。


 おじさんに案内された女子組は歓喜の声をあげた。

 そこは外観はともかくとして、実家よりも立派な邸だったからである。

 さらに驚いたのはログハウスの隣にある施設だ。

 外からは壁しか見えなかったが、そこは露天風呂だったのである。


 大きな岩風呂もあれば、壺にお湯が注がれているものもあった。

 そこかしこに木が植えられていて、野趣があふれている。

 そして何よりも空が見えることで、開放感がとんでもなかった。


 そこが浴場であることは理解できたけれども、まるで天上の楽園だと令嬢たちは思ったのである。

 やっぱりリー様は……以下略の状態だ。


 野営訓練? ピクニック?

 もはやリゾート施設である。

 おじさんが自重を捨てた結果であった。


「食べものはしっかり用意してありますの。ですがそれでは野営訓練の意味がありませんわ。そこで二手に分かれて食料を集めましょう。森に入って果物を集める班と湖で魚を釣る班ですわ。皆さんの希望を聞かせてくださいまし」


 ほぼ半数になるように班分けをする。

 魚釣り班のリーダーはおじさんだ。

 そして果物採取はアルベルタ嬢がリーダーに就任した。

 

 ちなみに森での採取班には、キノコに手を出すなと二回ほど釘をさしておくのを忘れない。

 キノコは有毒なものが多く、素人では判別しにくいものだ。

 中には触っただけでもヤバいキノコもある。

 だから絶対に手をだすなと警告しておいたのだ。


「それでは日が傾くまでがんばりましょう。成果がなくてもがっかりしなくていいですわ。皆さん、気楽にまいりましょう」


 “はい”と小気味いい女子組の声が響いた。


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