第9話 おじさん野営訓練で快適なお花摘みを実現する



「それじゃ出発するぞー。体調悪くなったらちゃんと言うんだぞー」


 担当講師の声を聞きながら、おじさんは女子組を集めた。

 一部、婚約者と班を組んだものもいるが、ほとんどが女子だけで班を組んでいる。

 例外は聖女くらいだろうか。

 聖女は王太子と取り巻きの班に入って、逆ハーレム状態だ。


「皆、無理をしてはいけませんわ。体調が悪くなったり、お花を摘みたくなったりしたら遠慮なくおっしゃってくださいな」


 おじさんが宣言する。

 先ほどのゴーレム馬車はそれを見せるためのものでもあったのだ。

 令嬢たちから歓声があがった。


 王都近郊にある夜迷いの森まで徒歩で二時間程度。

 そこからミグノ小湖まで徒歩一時間ほどの距離である。

 夜迷いの森まで歩いて、そこで休憩が入るはずだ。


 おじさんは令嬢たちを鼓舞しながら先頭に立って歩く。

 その姿こそ、民を率いる貴族そのもののであった。

 令嬢たちも貴族に連なるものたちだ。

 それなりには鍛えている。


 脱落者も出ずに夜迷いの森まで到着できた。

 おじさんの推測どおり全体休憩に入る。


「リー様」


 アルベルタ嬢から声がかかる。

 見れば数人の令嬢たちがそわそわとした様子でいた。

 なるほど、とおじさんは納得したのだ。


【宝珠次元庫・解放】


 おじさんが件の宝石を手にトリガーワードを唱える。

 ゴーレム馬車がどんと姿を現した。


「こちらへ」


 とおじさんは少女たちを先導する。

 ゴーレム馬車の中は、三十畳ほどの豪華な部屋であった。

 調度品も一流、広さも見かけとはまったく異なっている。

 むろんそれもおじさんの魔法である。

 空間を拡張する魔法を使っているのだ。


 設置されているトイレの個室は左右三つずつの六つある。

 いわゆるお尻だって洗えるトイレだ。

 その説明をして、おじさんは少女たちを部屋の中で待った。


 妙にすっきりとした表情の令嬢たち。

 というかいつの間にか、外にいた女子組全員が中に入っていた。

 そして小規模なお茶会が始まっている。

 おじさんもそのご相伴に与っていた。


「おーい。そろそろ出発するぞー」


 と担当講師の声が聞こえた。

 名残惜しそうな少女たちの背中を押すように外へと出る。


 聖女と王太子。

 そして取り巻きたちがこちらを見ていた。


「ず、ずるいわよぅ!」


「学園側にも認められておりますが、なにか?」


 そうなのだ。

 おじさん、実はしっかりと根回しをしている。

 条件は学園にもゴーレム馬車を三台寄付すること。

 各学年に一台ずつ、という計算だ。


 そしてカラセベド公爵家の商会から売りに出すことも告げている。

 おじさんの経験を舐めてはいけないのだ。


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