第8話 おじさん野営訓練にのぞむ



 学園では様々な講義が行われている。

 座学に実地と幅は広い。

 その中でも一年生の目玉講義とも言われるのが野営訓練である。


『高貴な血筋たるもの弱者の剣となり、盾とならねばならん』


 これは建国王が遺した言葉である。

 つまり王侯貴族として民を導く立場のものは、いざことが起きれば先頭に立って戦えというものだ。

 そのためアメスベルタ王国では尚武の気風がある。

 女子といえど貴族なのだから、事があれば戦うのだ。


 そのため男子女子関係なく、野営訓練にかり出されることになる。


「不安ですわ」


 王都近郊にある夜迷いの森。

 その外縁部からほど近い場所にあるミグノ小湖が目的地である。

 ミグノ小湖の湖畔にて二泊三日の野営をするのだ。


 アルベルタ嬢がそう呟いてもおかしくはない。

 例年のこととはいっても、実際に魔物もでるのだ。

 さらに言えば野営なんてことも初めてだろう。


「アルベルタ嬢、心配には及びませんわ。わたくしがなんとかします」


 おじさんの男前な言葉にアルベルタ嬢は目を潤ませた。


 ちなみにこの野営訓練では五人~六人ほどで班を作る。

 おじさんは王太子に誘われたのだが、当然のごとく断った。

 男女別のテントを使うといっても、彼らの目つきが怖かったからだ。

 必ず何かしらの性的な被害に遭うと確信できた。


 だからおじさんは先んじてアルベルタ嬢を初め、令嬢だけで班を作っている。

 聖女は王太子の班に入ったそうだ。

 モジモジとしながら、王太子の服をちょんとつまんでいる。

 あざとい。


 そんなこんながあって野営訓練を迎えた当日のことだ。

 おじさんに手抜かりはなかった。

 予想される事態に対して、万全の態勢を整えていたのだ。


 トイレに風呂、安心な寝床に負担を軽減する移動手段。

 そして美味しい料理である。


 戦場では男も女もないと言う。

 しかし乙女にとって野外で用を足すというのは難しい。

 さらに二泊三日とは言え、身を清められないのも困るだろう。

 というかおじさんも嫌だ。


 それらの課題をクリアすべく、おじさんは自重を捨てたのである。

 すべては乙女の尊厳を守るために。


「な、なによ、それぇー!」


 聖女が指さしながら叫んだ。

 そこにはおじさんが用意したゴーレム馬車が鎮座していた。

 いやゴーレム馬車という名のキャンピングカーである。

 野営訓練なのだ。

 持ちこめる物には制限がある。

 その制限をクリアするために、おじさんは収納魔法を開発したのだ。


【宝珠次元庫・収納】


 トリガーワードとともに馬車が忽然と消える。

 おじさんの手には小ぶりな宝石が握られていた。

 そう特殊な宝石の中に収納する魔法なのだ。


「あるぇー? ってごまかされるかー!」


 やかましい聖女である。

 おじさんはヤレヤレとポーズをとった。


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