第3話 おじさん学園にかよう



 王立学園。

 正式にはアメスベルタ王立高等学園という。

 王侯貴族の令息・令嬢がかようための学園だ。


 まるでゲームみたいだな、とおじさんは思う。

 学校そのものがあるのはいいのだ。

 しかし身分の差を問わない、などのルールの意味がわからない。


 そもそも王国は身分制度を採用している。

 そして学生はすべて貴族の子女なのだ。

 学園には四年間在籍することになるのだが、そこは貴族社会の縮図でもある。

 つまり身分の上下を完全になくすことなど不可能なのだ。


 そんな疑問を抱きながらも、おじさんは公爵家の令嬢(極)として学生の身分となった。

 学園には制服があるのだが、これもおじさんからすれば疑問だったのだ。

 だって前世でも見かけることがあったブレザーだったのだから。


 おじさんはブレザー姿になって鏡の前に立ってみる。

 お付きの侍女が“ほう”と息をもらした。

 美少女から美女へと移り変わっていく短い時期だけの姿。

 それは正しく女神の愛し子といえるほどの美しさだった。


 少し青みがかった白銀の髪はサラサラとして天使の輪も見える。

 すらりと長い手足。

 腰の位置がものすごく高いことに未だになれないおじさんである。

 もう既におじさんの前世よりも背が高い。

 

 十四歳とは思えないほど発育のいい身体だ。

 胸もしっかりとあるし、腰はくびれている。

 肌は透けるように白い。

 鏡の中から見返してくる形のいいアクアブルーの目。

 パーフェクトだった。


 この国ではなぜか美容品も豊富だ。

 あと前世でもお目にかかった洋食が根づいている。

 おじさんとしてはありがたかったが、異世界じゃないのではと思う場面はいくつもあった。

 ただ魔法と剣の世界ではあるし、魔物という人類の天敵までいる。

 その点で異世界であることを疑う余地はない。


「お嬢様、馬車のご用意ができました」


 “ありがとう”といっておじさんはくるんと回った。

 スカートの端がひらりと舞い上がる。

 健康的な太ももがちらりと見えた。


「お父様、お母様。いってまいります」


 にこりと微笑みかけるおじさんはどこから見ても令嬢(極)であった。


 おじさんは学園にかようのにあたってひとつだけ懸念があった。

 それは許嫁とはじめて顔を合わせることである。

 アメスベルタ王国の現国王と、カラセベド公爵家の当主は同腹の兄弟なのだ。

 兄が王となり、弟は断絶しかけていた公爵家に養子として入った。


 権力者としては珍しく仲のよい兄弟は、そのときにお互いの子が生まれたら結婚させようと約束したらしい。

 つまりおじさんは生まれたときから、婚約者が決まっていたわけだ。

 その相手は次代の国王、王太子である。


 いかに外面は超がつく美少女であっても、中の人はおじさんだ。

 そしておじさんの性的な嗜好はノーマルだったのである。

 この国の人たちは美形率が高い。

 恐らくその王太子も美形であろうと推測できる。


 だからといっておじさんは男に抱かれる趣味はない。

 断じてないのだ。

 そんな思いからおじさんは徹底して王太子と顔を合わせなかった。


 しかし学園にかようともなれば、避けようがないことも理解できていた。


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