第2話 おじさんチートをもらう

 女神に強制的に転生させられたことを知って、おじさんは涙した。

 しかし既に生を授かっている以上、それを悔やんでも意味がないのも事実である。

 今生を強制的に終わらせる方法はあるが、それはおじさんの信念に反するものだ。

 どんなに辛い状況でもおじさんは足掻いてきた。


 だから受けいれようと覚悟を決めたのである。

 アメスベルタ王国内では、ほとんどお目にかかれない超がつく美少女。

 そんなおじさんが、ふんすと気合いを入れる姿を見た侍女は尊いという言葉の意味を知ったそうである。


 神託の儀をうけることで、この世界では神の祝福をたまわれる。

 その具体的な効果がステータスを見られるようになることだ。


【ステータス】


 と頭の中で念じるだけで己の各種パラメータを閲覧できるのだ。

 そんなアホなことがあるのかとおじさんは思う。

 しかし両親に言われて、そのとおりに念じてみた。


 氏名 リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワ

 性別 女

 年齢 七歳

 天与 魔法の才能(極) 武技の才能(極) 生産の才能(極) 魔力増大(極) 魔力支配(極) 令嬢の心得(極)

 称号 神子(女神の愛し子)


 おじさんは驚愕のあまり愕然としてしまった。

 女神はいった。

 チートをあげる、と。

 だけどこれはやりすぎだ。

 まっとうに能力を伸ばせば、やがて魔王にでもなれるのではないだろうか。

 

 おじさんが思案していると、両親が声をかけてくる。


「リー。女神様からの祝福はいただけたのかい?」


「もちろんですわ、お父さま」


「よかったわね」


 両親はとてもいい人たちだ。

 優しく微笑みかけてくる表情は慈愛そのものだと、おじさんは思った。

 ともかく、この人たちを悲しませることだけはできない。

 そんな決意を胸におじさんは公爵令嬢(極)として生きていくことになったのである。


 その日からおじさんはチートという言葉の意味を理解する日々を送ることになった。

 魔法について書かれた本を読むだけで、書かれていないことも身につけられた。

 公爵家お抱えの騎士団の訓練を見れば、その動きをより高い次元で模倣できる。


 それはもう一事が万事、同じことの繰りかえしだ。

 これが健全なお子様なら、正しく魔王への道へと進んでいっただろう。

 しかし自制心の強い中の人がいるのだ。

 

 御令嬢としての道を踏み外すこともなく、おじさんは日々を生きていく。

 努力が不要であるという退屈。

 時間を無駄づかいするように、おじさんは様々なことに挑戦した。

 それらすべてをマスターしたおじさんに死角はない。


 そしておじさんは晴れて十四歳になり、王立学園にかようことになるのである。


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