妖魔と退魔師

蓮と玲奈が合流地点に到着すると、ミキはすでに待っていた。その横には、小柄な黒髪の少女がいて、気の強そうなツリ目は目の前の洞窟を睨みつけていた。


「レンレンおそーい」


ミキはそう言いながら、蓮の周囲を一周した。


「そっちこそ早いな。こちらの方が早く着くと思っていた」


「えりりん新発明のこれのおかげだねー」


「これじゃない。影走行シャドウバイク くん1号」


ミキの指差す先には、影走行1号こと二人乗りのバイクがあった。バイクとは言ったが、動力源は影石えいせきと呼ばれる、人の影を吸って魔力を発揮するものだ。影の吸い方によって、魔力の発し方が変わるため、普通の人間では扱うのが難しい。


「昨日できたやつか。ふたりの反応を見る限り、問題はなさそうだな」

「モチのロンだよー。なにせ、かの天才発明家えりりん様が作ったんだから」


なぜか作った本人よりも威張るミキだったが、絵里自身は気にするどころか、むしろ喜んですらいるようだ。「もっと褒めていい」と、ない胸を張っていた。


「そいつは今度も戦力として期待できそうだな。と、それはさておき、そろそろ本題に入ろうか。絵里、あまり見たくないような表情を浮かべていたが何があった」


絵里は蓮と同じで、感情を表に出さないことが多い。そんな彼女が険しい顔を浮かべるときには、決まって悪い状況が揃っている。


「結論から言うとビンゴ。ビッグアントの巣だね」


蓮たちがここに来た理由は、近隣の町の近くにビッグアントが出現したことだった。ビッグアントとは、文字通り巨大なアリで、地面に巣を作り、周囲の生き物を襲い、生物を枯らしてしまうほどだ。


5年前に廃墟を作ったのも、このビッグアントが原因だった。


「妖魔本体は中にいるのか?」


ビッグアントそのものは妖魔ではなく、妖魔が生み出す妖怪だ。妖魔を退治さえすれば力を失い、被害は出なくなる。


「行ってみないと分からないというのが答え。ただ、足跡の傾向的にはいると考えていい」


「そうか、では早急に排除に向かおうか。建物がひとつ沈みかけていることからして、巣はかなり広がっている可能性がある。とっとと本体を叩くぞ」


蓮の言葉を合図に、4人は洞窟に足を踏み入れる。数メートル進んだだけ陽の光は届かなくなり、一気に暗闇に包まれる。


「明かりをつける」


絵里は合図をすると、持っていた提灯に明かりをつけた。これも彼女の発明した道具のひとつだ。触れても熱くないのが、こだわりポイントらしい。


そこからしばらく進んでいくと、10メートル以上もの空間にたどり着いた。壁や天井はしっかり固められて、建物の中にいると言われても違和感のないほどだ。


違和感があるとすれば、あちこちに穴が空いていることだ。それぞれが道になっていて、出口はあちこちに繋がっている。


「いかにも何か住んでいそうな場所だねー」


陽気な反応を続けていたミキも、言葉こそゆるいものの真剣な表情を浮かべている。


「にしても不自然」


絵里は怪訝な顔を浮かべながら、最後尾を歩く。


「なにが不自然なんだ?」


「ビッグアントが1頭も通らない。普通ならすれ違うはず」


ビッグアントは、召喚主である妖魔の欲求に答え、地上から必要なものを持ってくるのが役割だ。


「ビッグアントがこの場所を放棄した可能性はあるか?」


「リーダーである妖魔がいなくなればあり得なくはない。だけど今の情報だけでは確定できない」


警戒を強めながらもさらに奥に進んでいくが、結局ビッグアントとはすれ違わなかった。


そして、一向の前に飛び込んできたのは、予想もしない光景だった。

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