ミキと絵里
長く続いていた道を抜けると、ライブ会場のような光景が広がっていた。
土を積み上げ作られたステージ。ステージの上には踊る影があり、観客がその姿をじっと見つめている。
これだけ聞くと違和感はないかもしれないが、異質なのは、観客が巨大なアリであるということだった。その正体はビッグアントで、アリたちはしっかり並んで、舞台の方を見つめていた。
それだけに留まらず、地下の空間だというのに、この部屋はやたら明るい。天井のあちこちには、
その中心に経つのは、ピンクを基調とした、ヒラヒラの服に身を纏った影だった。
「何よ、あれ…」
唇を噛みしめ、そう呟いたのはミキだった。彼女の足元の影は不規則に揺れ、今にも意思を持って動き出しそうだ。
「ミキ落ち着いて」
絵里が諭すも、ミキには聞こえていないようだ。小刻みに震わせながら、「ウチは…ウチだって…」としきりに呟いている。
「ミキ、落ち着け」
蓮が肩に手を置くと、ミキはゆっくりと顔を上げた。その目に光はなく、涙を浮かべている。
「お前はひとりじゃない。あいつに比べたら少ないかもしれないが、みんないる」
蓮はそう言うと、玲奈と絵里に視線を向けた。ミキはそれを追うように、ふたりを見つめると、最後には蓮に向き直った。
「うん…ありがと…」
ミキがお礼を言ったのを確認すると、絵里は精一杯背伸びをして、子供にするかのように頭をなでる。
「もう…バカ…子供じゃないんだから」
「10代の女子なんて子供」
「えりりんも10代じゃん」
「うん、私も子供」
普段無表情な絵里が、少し笑ったように見えた。表情がなくても感情がないわけではない。むしろその逆の方が多い。
周囲の声や音に敏感で、色々なことに気がつく。だけど反応すると何を言われるのか分からないから表に出さない。内面は見えているよりもずっと臆病で、感情が常に揺れ動いている。
その顕著な例が絵里だった。そして、それはミキも同じだ。ただ、感情へのアプローチの方法は全く逆なだけ。不安を心に留めておけず、表に出すことで平常心でいようとする。
表向きは陽キャと陰キャのふたりだが、心の奥底にあるものは似ていた。
楽しそうな二人をずっと見ていたい。蓮は心の中ではそう思っていた。だが、思っているとおりにはいかないのが現実で、彼の心を読み取ったかのように、玲奈が隣に立つ。
「蓮君、そろそろ」
「ああ、分かっている」
ここは地下にある洞窟。目の前には巨大なアリの集団がいて、ステージの前に列を作って並んでいる異常な状況。いつ襲われ、いつ死んでもおかしくない。
「妖魔だな」
蓮の視線はステージの上に立つ影に向けられる。10代の女の子の見た目をしていて、服も来ているが、女の
目も、鼻も、耳もない。その顔は真っ黒。顔だけじゃない。全身が真っ黒で、見るものの心を恐怖させる禍々しさを放っている。
「さあ、妖魔退治と行こうか」
蓮の言葉を合図に、3人の少女の表情が変わった。
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