第14話 木崎穂花の異世界ルーティン 前編

【06:00】


朝日が昇るのと共に目を覚ます。


寝ぼけている妹を叩き起こして、手早く身支度。


くんだばかりの井戸水はとっても冷たくて、妹とキャーキャー騒ぎながら顔を洗った。


【06:30】


少し前に作ってもらったパンが、硬くなってしまっていた。


異次元収納に入れ忘れたせいだ。


しょんぼりしながら、今日の朝ごはんはミルクスープ。


玉ねぎとにんじん、ソーセージをコンソメで煮て、仕上げにちょろっとミルクを入れた。


粉チーズは思いっきり。


パサパサになってしまったパンは、ふやかしながら食べる。


すごくお腹に優しい味がするのよね。


「お米が食べたいね……」


ふと妹がこぼした。心の底から賛同する。


お米に代わる材料を、いまだ発見できていないせいだ。


そのせいで、和食メニューは封印中。


そのうち食べられたらいいね、なんて言い合いながら完食。


洗い物は姉妹ふたりでやった。


【07:30】


妹は朝から訓練があるという。


神殿の中には、騎士のための大きな訓練場があった。


用事のついでに、妹を送っていく。


「マモリ・キザキッ! 今日こそ負けないからな!」


今日もフロレンスは元気いっぱいだ。


「もう。私がアンタに負けるはずがないでしょ!」


「それはどうかなッ! 伝説に鍛え上げられた私は最強だ!」


「馬鹿じゃん。すぐに強くなったらだーれも苦労しないってば」


まもりはげんなりしつつも、どこか楽しげだった。


仲がいいのはよいことだ。


……副官のギルの顔色がえらいことになっているのが気になりはするけれど。


大変だよね。


後で胃に優しい料理を持ってこよう。そう決意する。


妹との別れ際、なぜかジェイクさんに頭を撫でられた。


「今日もがんばっているな」


優しげに見つめられて、ほっぺたが熱くなってしまう。


少し前に、ジェイクさんに私たちの事情を知られてしまった。


それからというもの……。ううっ!


ジェイクさんの保護者オーラがすごい!


【08:00】


神殿の厨房にお邪魔する。


炊き出しの準備があったからだ。


「穂花ちゃん、おはよう」


「今日もがんばろうねえ!」


厨房の主役はおばちゃんたち。


人がすっぽり入ってしまいそうな寸胴をたくみに操る。


神殿に勤める人たちや、難民キャンプの胃袋を支えているのはこの人たちだ。


「穂花ちゃんは今日も可愛いねえ」


「ほんと、ほんと。アタシの若い頃にそっくり」


「ええ……。アンタ、老眼が進んだんじゃないの」


日本人だからか、年齢よりもかなり幼く見られている。


おばちゃんたちは私を可愛がってくれていて、ときどき本当の娘のように接してくれた。


それがとてもくすぐったくって。


炊き出しを作るのは大変だけど、ここに来るのが楽しみだったりする。


「さあ、やっていこうかね!」


「はい!」


それからお昼頃まで、汗だくになりながら料理を作り続けた。


【12:00】


お昼ご飯は教皇ジオニスと。


中庭のベンチで食べることにした。


メニューは炊き出し用に作ったもの。


大勢に配るから、根菜をたっぷり入れた具沢山の汁物だ。


さっぱり塩味だが、根菜の出汁が出ていてとても美味しい。


私のスキルのおかげで、疲労回復の効果があり、小さな傷くらいなら治してしまう。


「くう~! 穂花君のスープが身体に染み渡る……効くねえ!」


「いや、温泉に浸かってるんじゃないですから」


「だって。最近肩こりがひどくってさあ」


教皇と和気あいあいと雑談を交わす。


少し行った山中に、温泉が湧き出ている場所があるらしい。


いいなあ、行ってみたいなあ。


そんな風に思っていると、向こうが騒がしいのに気がついた。


「ハッハッハ! これが神殿騎士の力だッッッ!!」


騒ぎの中心は、フロレンスたちだ。


彼等はさまざまな魔物の死骸を持ち帰ってきていた。


訓練ついでに外で狩りをしてきたらしい。


特に目立っていたのは、ビックホーン。牛の魔物だ。


見た目は羊の角を持った牛。草食なのだが、敵対した相手を眠らせて、ひき殺してしまうという怖い部分もあった。


「おねえちゃん、ただいまー!」


妹の姿もある。


笑顔になりかけて、顔がひきつった。


なにあれ。どうして全身真っ赤なの!?


「血の汚れってどう落とせば……」


妹の活躍は嬉しいが、正直、そっちの方が気になった。


【13:00】


食事を終えると、できあがった料理を持って難民キャンプへ向かった。


「みなさーん! 無料です。どうぞ並んでください!」


おおぜい集まってくる。


ひとりひとりにスープを配って行った。


「穂花様……ありがたや……!」


「おおお。神よ、女神を遣わしてくださり誠に感謝します」


「ひ、ひえええっ! み、見つめないでくださいッ! 推しに認識されたくないタイプなんでッ!!」


……いろんな人がいるなあ。


というか、女神ってなに。私は勇者ですけど!? 推し!? 意味がわからない。


なんだか、私という存在がひとり歩きし始めている気がしている。


「美味しいねえ」


「身体が癒えていく……」


純粋に喜んでくれている人たちもいるから、それはそれでいいんだけどね。


料理はあっという間に配り終わった。


ぐん、と伸びをする。


後片付けが終わったらあそこへ行こう。


――神殿の中でも異彩を放つ、開発ラボだ。





――――――――――――


朝ごはんのミルクスープ


玉ねぎ 中サイズ半分

にんじん 中サイズ三分の一

ソーセージ ひとり二本ずつ

コンソメ キューブ一個

水 400ミリリットル

牛乳 50ミリリットル

塩胡椒 少々

粉チーズ お好みで


*牛乳は最後の仕上げに入れます。沸騰させちゃ駄目なやつ。


*正直、ミルク味に合いそうなら具はなんでもいいです。別名、残り物処理スープ。(きのこ類、根菜、ちょっぴりあまった豚バラ肉等々。ご飯を入れて雑炊にしちゃっても)

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