羽化登仙

「よおしちべすな君、今日は思い切り飲もうか!」


 ノワール君とちべすな君は少し大きめの仕事をやり遂げた週の金曜日、二匹で居酒屋に来ていた。

 彼らは他の同期にも声を掛けたが、残念ながら用事があるらしく、いつものように二匹での飲みになった。


「いやあ……しっかしよくあんな無茶な日程の仕事をやり切ったね」


 辛い日々を思い、ノワール君はしみじみと呟く。

 ちべすな君は激しく頷く、その目にはうっすらとクマが付いている。


 戦場のような日々を終え、二匹はぼんじりを頬張りビールを口に流し込む。

 喉を流れていく麦汁は、彼らの疲れ切った体から優しく魂を抜く。


「ああ……美味しいねぇちべすな君。昔は苦手だったんだけどなぁ……ビール」


 二匹はそれから勢いづき、次々とグラスを空けていく。

 それと並行して、二匹の顔はどんどん赤みを増していった。


「あ、あ~……気分いいねえちべすなク~ン」


「……羽化登仙うかとうせん


「う~? なにそれ?」


 ノワール君はたどたどしい仕草でmいつもよりずっと時間を掛けて言葉の意味を調べる。


「ああ……つまり気分が良いって事だね……? 僕も最高の気分だよ……」


 少し間を空けて、ノワール君はちべすな君の方を見た。


「よし! ちべすな君! もう一軒行こう! こんな気分の良い日はそうはないよ!」


 ちべすな君も、アルコールに浸った頭を大きく縦に振る。

 二人は会計を済ませると、二件目の居酒屋へ千鳥足で向かった。



羽化登仙うかとうせん


 酒などに酔って、快い気分になった……みたいな意味。

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ちべすな 猫パンチ三世 @nekopan0510

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