一日千秋

「寒いね、ちべすな君」

 

 ノワール君とちべすな君の二匹は、休日の昼に有名なラーメン屋に並んでいた。

 店の前には寒空の下だというのに長蛇の列、二匹は体を軽く震わせた。


「なんでみんなこんな寒いのにわざわざ並んでるんだろうね、家でカップラーメン食べればいいのに」


 豪速ブーメランを投げながら、ノワール君は口を尖らせる。

 だがちべすな君も、うんうんと頷いてそれに応えた。


 ちべすな君はどちらかといえば寒さに強いが、ノワール君は寒さに弱い。

 会社でも、モコモコのひざ掛けを使って作業をしている。


 そして二匹が並び始めてから一時間が経った頃、彼らの前のカップルが店内へ入って行った。


「次だね」


 そんな事をノワール君が言った直後、店の入り口から店員のトラが顔を覗かせた。


「えー……二名でお待ちのノワール様」


「はーい」


 二匹は、ようやく店ののれんをくぐって店内に入る。

 店の中は暖かく、ラーメンの良い香りが漂よっていた。


「いやあ長かったね、待ちくたびれちゃったよ」


一日千秋いちじつせんしゅう


「いち……? ちょっと待って」


 ノワール君はスマホで言葉の意味を調べる。


「えーっと、つまりラーメン食べるのが待ち遠しかったって事?」


 ちべすな君は静かに頷く。


「そっか! 僕もだよ! じゃあサクッと決めて食べよっか!」


 二匹はメニューを広げて、あれやこれやと話をして楽しく食事に臨んだ。



 ・一日千秋いちじつせんしゅう


 一日が千秋=千年にも感じられる事。非常に待ち遠しい……みたいな意味。

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