砂に落ちた思い出【4-7】
乗り込んだエレベータの操作盤に取り付けられたスイッチから、この施設が地下5階まで建てられていることがわかった。地上階も存在していたが風化してしまったのか、もともと地下階のみの建物だったのかは不明だ。
「ふおお」
「みゅうう」
かごの加速による浮遊感を初めて経験するだろう二人が奇妙な鳴き声をあげる。僕はそれを笑うこともできず、この時間が無事に過ぎるのを祈り続けた。金属がけたたましく悲鳴をあげて、重力に捕らわれ落ちるエレベータの妄想が頭を離れない。
チンと軽いベル音がして扉が開いた。待ち望んだ瞬間の訪れに僕は安堵のため息を吐く。
「不思議な感覚がして面白かったですね」
「うむむ、内臓が浮くというか、気持ちの悪い感覚だったぞ。前世界ではいつもあれに乗って階を移動するのか。階段を上り下りしなくていいとはいえ……」
「ほら、降りないと動き出してしまうよ」
口々に感想を述べる二人を急かしてエレベータを出る。帰りもこいつに乗らないといけないことに思い至ってしまい、吐きそうになった。
「さて……またしらみつぶしにドアをあたってみるか」
とりあえず地下2階に来てみたが、特に代わり映えのしない風景だ。構造としてはおそらく一階と変わらない。
またドアというドアの端末に手首の端末をかざし、入室をリクエスト。そして、それを拒否される。繰り返す落胆に、シヴィラもあくびを漏らした。
「ふぁ……開けられる扉、見つかりませんねえ」
初めて来たときにはシヴィラから感嘆の声を引き出した廊下も、何が起こるというわけでもない。白い壁に等間隔のドア、まるで永遠に続くかのよう。退屈な空気が漂い始めていた。カイリアですらも口数を少なくしている。
「……見込んだような情報は手に入りそうにないね。どのドアも僕の端末では開けられないみたいだ。そうなると、僕とこの施設も無関係に思えるし……この階を一回りしたら外に出ようか」
「……え? あ、ああ、そうだな」
彼女にしては珍しくぼんやりしていたらしい。返答が遅れた。
「カイリア、大丈夫かい。疲れたなら今からでも……」
「いや、気にしないでくれ。この階に来てからどうも頭がぼーっとしてな……それだけだ」
「エレベータ酔いでもしたかな」
エレベータが乗り物酔いを起こすかどうかは知らないが……そういう人間もいるだろう。まして一度も乗ったことがなかったのだから。
何にせよこの階の探索で帰路につけるとなり、僕は心中で喜んでいた。元よりこの遺跡にはあまり多くを期待していなかったこともあるし、言っては悪いがモノリの二の舞になることを僕は怖れていた。最大の目的であるカイリアとモノリの対面は果たせたことだし、さっさと彼女を地上に連れ出してホーゼナイへ戻ってしまいたい。
それともう一つ……やはりこの遺跡は不気味である。エレベータは動くし、清掃ロボは現役。廃墟なのは間違いないが、それにしたって千年経過しているとは思えないくらい建物としての形を保っている。
こんな異空間を歩き続けるホラーゲームがあった気がする。永久に同じ廊下をループし続けるのではないか。ツォングシャラをまだましだったと思えるような、この世のモノでない何かが急に現れて追いかけてくるのではないか。
そんな想像を逞しくさせる雰囲気が僕の背骨をぞわぞわと撫で続けているのだ。
「ああ! エイユー様、封印されていない扉を見つけましたよ!」
「うむ。電子ロックとやらが施されていない。この先は奥の区画へ通じているみたいだな」
恐怖に駆られて天井に視線を逃がしている隙に、二人が素晴らしい発見をしてくれた。厚い両開き扉が八割ほど開いた状態で停止している。電源を切られているようだ。くそったれ。
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