第5話・バッドアフタヌーン! さあ、無限の異世界転生を楽しみましょう♪ ラスト

 高校生の池煮江が気づいた時──高校の自分の教室で自分の席に座っていた。

(今のは悪夢? そうだよな、異世界転生なんてあるワケが……)

 池煮江が額の汗を拭った時──教室の扉が爆裂で吹っ飛び、悪魔の卍華が高笑いをしながら現れた。

「バッドアフタヌーン! 池煮江、異世界転生の時間ですわ。わたくしが従えている悪魔の力を使えば、数日後の現世界時間に逆転生で池煮江をもどすなど、簡単なコトですわ」

「うわあぁぁぁ!」

 卍華の横をスリ抜けて、教室から逃げ出す池煮江。

 冷ややかな口調で呟く卍華。

「逃げてもムダですわ……死になさい」


 卍華が指を鳴らすと、大気圏で燃え尽きずに、燃える小石サイズになって落下してきた隕石が、窓ガラスを突き破って池煮江の側頭部を貫通して……池煮江は即死した。


  ◇◇◇◇◇◇


 池煮江が転生した異世界は、中世のオランダのような世界だった。

 剣とか魔法とか無縁な世界──その世界の貧しい家の男児として池煮江は転生した。

 幼い頃から、犬が引く雑貨を積んだ荷車で行商して日銭を稼ぐ日々。

 それは、雪が降り積もる寒い夜だった。

 雪の中を犬と一緒に歩き回り、空腹と疲労と寒さをしのぐために。

 少年の池煮江は、鍵が掛かっていなかった教会の中へと入った。

「ここなら、外よりは多少寒さをしのげる」

 池煮江は、祭壇に捧げられていた供物の固いパンに手を伸ばして二つに割ると、片方を愛犬の前に置く。


「神さま、捧げ物を食べるコトをお許しください空腹なんです」

 池煮江が愛犬に言った。

「お腹が空いただろう……お食べ」

 犬はガツガツとパンを食べて、さらに池煮江が持っているパンも求めて牙を剥く。

 池煮江は、微笑みながら自分のパンを愛犬に差し出す。

「よっぽど、お腹が空いていたんだね……ボクの分もお食べ」

 畜生の犬は遠慮するコトなくパンを平らげ、空腹が満たされると床に横たわり。

 池煮江も、愛犬に寄り添って横になる。犬についていたノミに刺されながら、池煮江は愛犬の頭を撫でて言った。

「疲れたろう……ボクも疲れた……これで天に召されれば、安らかな死が……」


 床から卍華の頭が半分出てくる。

「許しませんわ、池煮江に安らかな天国行きの死など認めませんわ……地獄に引きずり込んでやりますわ」

 床から出てきた黒い何本ものカギ爪の手が池煮江を、地の底に引きずり込む。

「うわあぁぁぁ!」

 天使に導かれて、尻尾を振りながら昇天していく愛犬を見上げながら。

 犬は天国へ、池煮江の魂は、肉体から地獄に引き抜き落とされて……死んだ。


  ◇◇◇◇◇◇


 現世界の自分の部屋のベットの上で、池煮江は気がついた。

(また、異世界転生していた)

 部屋のドアが、蹴り破られ現れる卍華。

「バッドイブニング! 異世界転生の時間ですわ」

「ひいぃぃぃっ!」

 部屋から飛び出していく池煮江、パチッと指を鳴らす卍華。

 階段の一番上に、なぜか落ちていたバナナの皮を踏んで後方転倒した。

「が、ぎ、ぐ、げ、ごぅ!」

 池煮江は後頭部をダン、ダン、ダンと階段に連打して……死んで異世界転生した。


  ◇◇◇◇◇◇


 西洋地獄にある上位悪魔の館で、卍華はティータイムを美形悪魔と楽しんでいた。

 片目をアイパッチで隠した、美形悪魔が卍華に言った。

「地獄転生者の、いたぶりはどんな感じだクマ?」

「順調ですわ、何も問題ありませんわ……先日は、古代マヤ文明的な異世界に転生させて。

三世代に渡って研磨してきた【水晶ドクロ】を、完成間近のところで池煮江の見ている前で叩き割って、ショック死させて現世に逆転生させてやりましたわ……おほほほっ」


 紅茶を飲みながら卍華が言った。

「悪魔はさまざまな姿に変身できるのでしょう? 館の中ではリラックスして本来の姿にもどられては? わたくし、一度あなたの本当の姿を見ていますから驚きませんわ」

「それなら、お言葉に甘えるクマ」


 アイパッチをした美形悪魔の姿が変形して、ヒトデ型の体の中央に一つ目の悪魔に変わった。

 ヒトデ型一つ目悪魔が、ストレッチをしながら言った。

「やっぱり、この姿が一番落ち着くクマ」


 熱い紅茶を、空になったカップに注いで一つ目に運んで飲もうとする悪魔。

「ぐわぁぁ、飲む場所間違えたクマ! 目が、目がぁ!」

 悶絶して床を転げ回ったヒトデ型の悪魔は、充血した一つ目に点眼しながら卍華に言った。


「ところで、池煮江には地獄転生の呪いを解く、唯一の方法は伝えたクマ?」

 紅茶を飲んでいた、卍華の動きが一瞬止まる。

「伝える必要は、ありませんわ」

「はじめて人間の愛を知った異性の悪魔がクマ、心から愛する気持ちで地獄転生の呪いがかかった人間にキスを……すればクマ」

「ありえませんわ……天国と地獄が、ひっくり返っても。わたくしが池煮江を好きになるなど……おほほほ」


 紅茶を飲み終えた卍華は取り出した死のノートデス・ノートのページを広げて眺める。

「次はどんな笑える方法で、池煮江を異世界に送ってやりましょうかしら……おほほほっ」

 ドSな悪魔、悪之宮卍華は令嬢笑いをしながら、死のノートに書かれた笑える死に方を楽しげに眺めた。


 悪魔冷嬢~おわり~


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