呪いで異世界転生しても、夢見た理想の異世界人生を送れるとは限らない
第4話・安易な異世界転生者の、ご都合主義なお気楽、異世界人生なんて許しませんわ
地獄スカンクのオナラで死んだ池煮江は、現世での記憶を持ったままテンプレ的な異世界に転生した。
冒険者や勇者や魔法使いになって、魔王を倒すためにパーティーの仲間と苦難を乗り越えて……なーんて、コトは一切なく。
池煮江が転生したのは、極々平凡な一般人、庶民、平民、村人B、ゲーム背景の無口な人、場合によってはまったく動かない人……そんな、どーでもいい地味なモブキャラや、ザコキャラの一人として転生した。
スローライフな田舎生活とは言いがたい、貧困な村を素通りしていく。エロ最低勇者のハーレムパーティーや。
「オレつぇぇ!」と顕示欲丸出しで、手当たり次第に誇示をする無双バカキャラや。
追放されたパーティーに逆恨みを抱いて復讐する「ざまぁ! もう謝っても許してやらない!」の陰険な魔法使いや。
「きっと自分には、凄い秘められた力が宿っているんだ」と、妄想する少年や。
青年に成長した池煮江は、午前中は父親と一緒に山で木こりの仕事。
午後は港で漁師の叔父の手伝いで市場に魚を運び。
家に帰ってからは、休む間も無く母親の手伝いで畑を耕す。
朝から晩まで、地獄転生した池煮江は、働き詰めた。
(田舎で、まったりのスローライフ異世界転生が待っていると思ったのに……こんな、異世界人生は地獄だ)
そして、未婚のまま老人となって身内が誰もいない。
池煮江は、老衰死の瞬間を迎えようとしていた。
粗末な家の粗末な木製ベットで、孤独に天井を見上げる池煮江の目に、涙が浮かび呟く。
「思えば何もない平凡な、つまらない異世界転生の人生だった……
いい想い出なんて一つもない、面白味もない、転生人生を振り返る池煮江の、シワが刻まれた顔に安堵の笑みが浮かび、再び涙があふれる。
「でも……最後は微笑みながら臨終を」
その時、ベットの脇から聞き覚えがある女性の声が聞こえた。
「バッドモーニング! 地獄転生の呪いがかけられた池煮江に、安らかな臨終なんて訪れませんわ……おほほほっ」
ベットの脇に、悪魔姿の悪之宮卍華が、蔑んだ目で池煮江を見下ろして立っていた。
「池煮江に、地獄転生の永遠呪いをかけた悪魔の話しだと……ずっと、現世界で亡くなる池煮江と、異世界転生して人生を全うする池煮江を、近くで見続けてきたそうですわ……おほほほっ」
卍華の説明だと、呪いをかけられた池煮江は、さまざまな異世界に転生してもモブキャラ以下、ザコキャラ以下の地味な存在で目立たない人生を送り。悲惨な最後を迎えるのが運命らしい。
「現世界から異世界に転生する時も、馬に踏みつけられたり、車輪に轢かれたりして三日三晩苦しんだ末に死んで……異世界転生しても、現世界に逆転生する時も悲惨な死に方をして、もどって行くそうですわ」
卍華は、巻かれた羊皮紙を広げて、内容を読みはじめた。
「これは、わたくしに仕事の継続を依頼してきた悪魔からの、お願い状ですわ──『地獄転生の呪いをかけたとは言え、永遠に転生を繰り返す退屈な人生の人間を見続けるのは疲れたクマ……解けない呪いをかけて復讐するのも虚しくなってきたクマ……自分に代わって、地獄転生者を監視して。いたぶる役目を【悪之宮卍華】に継承してもらうクマ……あとは頼んだクマ』だ、そうですわ」
卍華は、ベットの端ををつかんで言った。
「わたくしが、引き継いだからには。笑える悲惨な死に方しか認めませんわ! そうれぇ!」
ちゃぶ台返しの要領で、池煮江老人が寝ているベットがひっくり返る。
「どわぁぁ!」
空中回転したベットの下敷きになった、池煮江は必死にベットの隙間から這いずり出てくる。
卍華が楽しそうな口調で言った。
「笑える悲惨な死に方の本番はこれからですわ」
卍華が指を鳴らすと、家が揺れて屋根が剥がされた。剥がされた屋根から中を覗く一匹のドラゴン。
「この家はドラゴンのトイレになりましたわ……あのドラゴンは、少し下痢気味でトイレを探していましたわ……おほほほっ」
尻尾を上げて、洋式便座に座る格好で家に腰を下ろすドラゴン。
恐怖に見開いた目で、ドラゴンのある一点を凝視する池煮江。
笑う卍華。
「ドラゴンの排泄物で圧死しなさい……池煮江、おほほほっ……また、現世界でバッドモーニングですわ」
「や、やめろおぉぉ! うわあぁぁぁ!」
池煮江は、ドラゴンの排泄物に埋もれて……死んだ。
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