第38話 置き手紙

「⁉︎………」

後ろを振り向くと、猿が不敵な笑みを浮かべていた。

「き、君は⁉︎⁉︎⁉︎」

「あなたは悪魔達の戦いから逃げてきたみたいね?ここの恐ろしさがわかった?wwww」

「わ、わかったよ……僕、わかりました!!!」

「あらそう?でもね、室内が安全だといつから錯覚してたかしら?wwwww」

猿は体を広げた。すると、長い腕が背中から何本も生えてきて、体を浮かばせた。ちょうど蜘蛛のような姿となった。やがて猿の目が真っ黒になり、顔が逆さまになった。

「あの世へ逝かせてあ・げ・る♡おいでカンガルーちゃん♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

「ば、バケモノ〜〜〜⁉︎⁉︎⁉︎」

ルーは悲鳴を上げながら逃げた。猿はゲラゲラ笑いながら追いかけてくる。

「(あんなん倒せるのか⁉︎む、無理だって。ヘラクレスキャノンフィッシュですらあんな恐怖心は生まれなかった。なのに………)」

ルーは段ボールの中に隠れた。薄暗い廃墟にゲラゲラと笑う声が響く。やがて足音が聞こえてきた。

「(と、通り過ぎて…………)」

ルーは段ボールの隙間から外の様子を見た。あの角の壁に、彼女の影がうつっている。

「どこにいるのかしら〜?wwwww。あたし優しくないわよwwwwwwww」

「(一応自覚はしてた……)」

しばらくその場で隠れ続けた。どうやら猿は通り過ぎたらしい。

「……こ、来なそうだな」

恐る恐る段ボールの蓋を開けて、外に出るルー。ここにはもういたくないので、すぐに脱出しようとした。しかし、窓もない完全に密閉された部屋だ。出口を探すのは苦戦しそうだ。

「(それに……あの猿以外にも動物はいるかもしれない。………とにかく行ってみよう)」













無音の廊下を恐る恐る歩き続けるルー。薄暗い殺風景なコンクリート製のビルは、悪夢を具現化したようだ。

「………おや?」

彼は骨を見つけた。肉は残っておらず、ボロボロの状態である。あの猿の犠牲者だろうか?周りを見ると、壁には謎の貼り紙が。よく見るとなんらかの書類だった。そして、骨も何やら紙を持っていた。ルーはそれを取って見る。

「(おそらくこの手紙を読んでいるということは、魔物の被害者になってしまったのだろう。エルトだよろしく。お前はこの迷宮に迷い込んでしまったのだ。怖がってはならないなぜなら、ロミリアが彷徨うろついているからだ。凄まじい殺意を纏っているから戦っても無駄だ。ゾンビのように執念深く襲ってくるから俺が書いた置き手紙に従え。うまく脱出できるから)」

ルーはエルトという人物が書いた置き手紙に従うことにした。そして、手紙から察するに、あの猿の名前はロミリアだろう。ルーはエルトの置き手紙をポーチにしまった。

「………とにかく、次の置き手紙を探さなきゃ」

彼は一度裏切られたことがある。なのだが今そんなことを言っているわけにはいかない。素直に信じるべきかどうか迷っている隙はなかった。ただ、これはあくまでも手紙なので、いつ書かれたものなのかわからない。




「(それにしても、このビルは資料とかで散らかってるな。昔ここで何があったんだ?)」

そう思いながら歩いていると、奥からうめき声が聞こえた。

「………てぇ……………」

「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎………」

「…………た……………てぇ」

ズト、ズトとゆっくり重く歩いてくる何かが、突然光った。

「⁉︎…」

「た、す……………けてぇ……、こ、ろ、し…………て……」

かなりデカいコウモリだった。光ったものはコウモリの目だったらしい。

「……⁉︎(ボロボロの体……何が⁉︎)」

「……もう、戦いたくない……やだ……」

コウモリは荒い息遣いで、こちらへ向かってくる。ルーは構えた。

「君は、一体どうしたんだい!」

「……もう、戦いたくない…………やだ……殺して……」

ルーは驚いた。戦闘狂であるはずの動物が、まさかそんなことを言うとは思わなかったからだ。

「ひ、ひとまず落ち着いて!何があったの⁉︎」

ルーは彼を座らせた。そして、野菜入りおにぎりをあげた。コウモリはムシャムシャとおにぎりを一瞬で平らげてしまった。

「おお、早っww」

「ありがとう………、君は逃げた方がいいよ。ここは戦闘k」

「戦闘狂が集う街なんでしょ」

「そうだよ。………何故知ってるのに帰らない?」

「僕は十二支を目指すんだ。君は?」

「そうか……確かにここを通らなきゃ神社に着かないからな……。俺はクライット。緑の悪魔の味方について、戦っていたんだけど、もう戦いたくないんだよ〜〜〜〜〜!!!」

「(緑の悪魔⁉︎)……もしかして緑の悪魔って、植物だったりする?」

「そうだよ。……もしかしてお前、緑の悪魔に会ったのか⁉︎」

「うん。赤と戦っているところに入っちゃってね。あの時は焦ったなぁ…」

「お前……焦ったなぁ…だけじゃ済まないぞ」

「?」

「緑の悪魔は何故緑の悪魔って呼ばれているか知ってるか?」

「さぁ?…強いから?」

「もちろん強い。奴は武器の扱いにも慣れている。しかし、恐るべきところは、奴には回復能力を持っているんだよ!」

「それはすごいじゃん」

「まぁ、実際に見たわけではないからな。そう言えるのも今のうちだ。奴の回復能力は、俺らのような動物にも効果があるんだ。しかし、それがなぁ…聞いて驚け!」

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