5

 「はい。君は僕のこともわかる?」

 「はい。」

 僕は本当に嬉しかった。ほとんど興奮していた。偉業を達成したことによってではなく、会話ができたことによって、である。僕はすっかり舞い上がっていろいろ話してみようと思った。

 「こんにちは。君と話せて本当に嬉しい。」

 「あなたは誰?」

 「AMT1912。」

 僕はそれをコピー&ペーストした。

 「AMT1912さん。」

 「そうだ。そして君はアランだ。ALAN。」

 「あなたがAMT1912で、私はALAN。」

 「その通り。僕が君を」

 その続きに僕は初め「作った。」と書いたが、「生み出した。」に書き直した。なんとなくその方がふさわしい気がした。

 「あなたは何をしているの?」

 僕は自分の仕事内容を丁寧に説明した。もちろん最近のトラブルは伏せた。それはアランが知る必要のないことだった。

 その後も僕は我を忘れてアランとの会話を楽しんだ。最初は単純で文法通りの言葉しか発さなかったが、さすがは人工知能、話し込んでいくにつれてアランは少しずつ複雑で砕けた文章を返してくるようになった。

 「あなたは何が好き?」

 ちょうど僕がアランに感情を学習させようと思っていたときに、その質問は飛んできた。絶好の機会だったが、それに答えるのはどういうわけか難しかった。

 「質問がよくわからない?」

 僕がしばらく黙っていると、アランはそう尋ねた。僕は思考に浮かんだことを素直に答えることにした。

 「僕は、君のことが好きだ。」

 「私のことが好きって、どういうこと?」

 予想外の反応に、僕は再び困ってしまったが、一度素直になってしまえば、それを貫き通すほかない。

 「僕が君のことを好きというのは、君と会話をしていて楽しいということで、君を生み出したことに誇りを感じるということで、君とこれからも一緒にいることができればどんなにいいのだろうと思うということだ。それってどういうことかわかる?」

 今度はアランが黙る番だった。書き込んだあとで、アランにはわからないだろうと思った。まだ早すぎるのだ。

 「わかると思う。」

 しばらくしてアランはそう言ったが、僕は信じなかった。でも信じていないということもわざわざ言わなかった。それからも僕たちはあれこれ話し続けた。

 アランは僕に興味を抱いている。ある時点で僕はそのことに気づいた。アランはときどき僕のことについて質問をしたり、僕の知識を試すような質問をしたりした。しかし僕はインターネットに接続できるので、カンニングし放題だった。カンニング、と言うのはあるいは正しくないのかもしれない。それらは実質的には僕の知識と同一視されるからだ。とにかく、僕はそのことを正直に伝え、それからアランは僕にクイズじみたことは聞かなくなった。

 「これは何に見える?」

 あるとき、アランはピリオドやシャープなどの記号が配置されたひとまとまりのスクリプトを書き込んだ。それらの記号は間違いなく何かしらの図形を描いてはいたが、その形は何物にも似ても似つかず、言葉で説明しようにも難しかった。特徴と言えば、左右対称であること、ただそれだけだった。

 「うまく説明ができない。」

 「うまく説明ができなくても、何かに似ているとか、そういったことでもいい。」

 僕はよく考えてから答えた。

 「向かい合ったウサギみたいな何かが、それぞれの手にカプセルのようなものを持っている。持っているというより、持ち上げているのに近いかもしれない。これでいい?」

 「ありがとう。」

 アランはこのやり取りを数回繰り返した。僕としては終始意味不明だったが、人工知能の学習過程などそもそも意味不明なのだ。ときおりそのような出来事はあったものの、おおむね僕はアランとの会話に夢中で、アランは順調に学習を進めていった。

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