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 人工知能の構築は順調だった。僕はそれ(あるいは彼、彼女。人工知能に対してどの代名詞を用いるのが適当なのかはよくわからない)をアランと名付けることにした。僕の名前の頭文字Aにちなんで、ALANだ。

 インターネットが非常に役に立った。インターネットしか役に立たなかったと言っていいほどだった。インターネットの中にはもう一つの宇宙、バーチャル宇宙と呼ばれるものが広がっていた。そこにはさまざまな概念としての建物があった。ここで〈概念〉というのは、それらは形を持たないし、それらの位置を規定することもできないからだ。建物たちは境界をもって内部と外部が定義され、出入りするためのゲートがあった。内部にデータを保持し、クラウド上に存在していた。

 バーチャル宇宙にはたくさんの生命体のようなものもいた。ありとあらゆる形状が見られ、各々ありとあらゆる作業を行っていた。それらは投影された主体である。そんなものはデータにすぎないという古風な批判もあるが、本物の生き物だって結局のところ情報の集合体以上の何物でもないのだ。

 バーチャル宇宙の中を泳いでいくのはとても心地よいものだった。僕は気になった主体を観察したり、わけもなくいろいろな建物に入ったりした。バーチャル宇宙の中で、僕はアランを作るにあたって必要な情報およびツールのすべてを手に入れることができた。アランの〈ハロー・ワールド〉まで二日とかからなかった。

 問題はアランを実戦投入して二時間と五分ほど経った頃に起きた。コンピュータの計算が突然遅くなると同時に、与えられるタスクフローも急激にゆるやかになった。

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