7話 ファーストコネクト②
一秒でも早く避難所へ。そう判断したヴィクトルはアルマに呼びかけ、急ぎ避難所へ急行する。ここから避難所までは全力で走って約十分くらいかかる。
「囮ってどういうことだよっ? さっき倒した奴が街を襲ってたんじゃねーのかっ?」
「それは正しい! 敵の狙いは不明だが、おそらくR9は我々と民間人を引き離すためのエサだったってことになる! 僕の悪い予感が的中するとしたら、今頃避難所にいる民間人と軍警何名かが襲われているはずだ! 敵が何者かはわからんが、どっちにせよ良くない状況なのは変わらない!」
「!」
「とにかく急げ! 犠牲者が出る前に!」
アルマとヴィクトルは全力の脚力を持って避難所まで走り続ける。避難所である公園に着いたところで二人は急激に減速し、停止した。
「なっ……⁉︎」
二人が見た光景は──地獄絵図だった。
地面からは火が燃えており、数十人が怪我を負って倒れている。子供の泣き声も聞こえる。
「……なんてことだっ……‼︎」
言葉を失っていたヴィクトルがかろうじてそう言った。
「ふ、副官っ、殿……っ‼︎」
近くでイサミの掠れた声が聞こえた。見ると、瓦礫の近くでイサミが座り込んでいた。彼女の近くには先程助けた男の子と母親が倒れていた。
「イサミッ⁉︎ ……っ‼︎」
すると、女性の悲鳴が聞こえた。すかさずヴィクトルが悲鳴の聞こえた方を向く。遠くで女性が誰かに襲われている。両手の爪が異常に長い小柄の人、いや、もはやそれは人ではない。化け物だった。
「貴様あっ‼︎」
瞬時にヴィクトルは化け物の方へ走り、右手の刃で女性を掴んでいた爪を断ち切った。
「早く逃げろ‼︎」
「は、はいっ‼︎」
女性は急いでその場を去った。
逆立った水色の髪をしたその化け物は、ニヤニヤとヴィクトルを見つめている。返り血も浴びていることからより不気味に見える。
「なるほど……貴様が……‼︎」
ヴィクトルは刃を構えて睨み返す。
「イサミ! 大丈夫か⁉︎」
アルマは慌ててイサミの様子を伺う。しかし、イサミも無事ではなかった。左腕が損失しており、身体の所々も損傷し、機械部分が剥き出しになっていた。
「お前っ、腕が……‼︎」
「じ、自分のことはいい……‼︎ この親子だけでもと思い、下手したまで……‼︎」
「それよりあいつが……⁉︎」
「ああ……おそらくあれは、百年前に廃番化した子供型アンドロイド……本来あれは人を傷つけない非戦闘型……何者かが、多分エルトリアに属する者が戦闘型に改造したのだろう……理由は不明だが、おそらく狙いは民間人。アルマ殿と副官殿を引き離すために、囮を使ったようだ……」
「!」
ヴィクトルが言っていた推測通りであった。
「どのみち自分はここから動けない……増援も呼んだがまだ時間がかかる……アルマ殿……副官殿を、頼む……‼︎」
すると、アルマは首に巻いていたマフラーを取り、イサミにそれを手渡した。
「?」
「お守り。何かあったらそれ使ってくれ」
イサミはこくりと頷いた。
「……あいつのことは、任せとけ!」
アルマはイサミにサムズアップサインを送り、急いでヴィクトルの元へ向かう。
一方、ヴィクトルは化け物機械人と刃を交えていた。どうやら爪は再生可能らしく、切っても切ってもすぐに再生する。
「やはり本体を破壊するべきか……‼︎」
ヴィクトルは銃を出し、発砲する。しかし機械人の動きがすばしっこく、なかなか当たらない。
「キエエエエエアッ‼︎」
機械人が奇声を上げて一気に詰め寄る。
「しまっ……‼︎」
隙を突かれてしまったヴィクトルは、左足を切り裂かれてしまった。
「ぐっ……‼︎」
膝を着いた瞬間を狙い、機械人が爪を振りかぶろうとした。
が、次の瞬間、背後からアルマの蹴りが炸裂した。めきょっと聞いたことのない音がした後、機械人は遥か東の方向に吹っ飛ばされた。
「おい‼︎ 大丈夫か⁉︎」
すぐにアルマはヴィクトルへ寄る。
「……油断した……っ‼︎」
「足が……待ってろ! すぐにあの化け物倒すから、お前はここで…」
「問題ない……‼︎ 足は損傷したが損失したわけではない……これくらいの損傷、許容範囲…」
ヴィクトルは立ち上がろうとするが、上手く立ち上がれない。
「そんなんじゃ無理だって! その状態で行ってもまた怪我するだけだ!」
ヴィクトルはアルマをきっと睨む。
「じゃあこのまま奴を放置しろと⁉︎」
「言ってない! あいつはオレが…」
「あれは、僕が殺るべきだ……‼︎ この失態は僕も含まれている……責任を果たさねば、軍警の名が廃る……何より、ここでやらずして誰が民間人を守る……⁉︎ 軍警は民間人を守ることこそ使命だ……‼︎ ここで折れたら、僕は一生自分を許さない……‼︎」
「!」
ヴィクトルは民間人を優先している。誰よりも守りたいという思いが強く感じられる。ヘリにいた時はああ冷たく言ってはいたが、あれは無鉄砲なアルマを叱っただけで、子供を見捨てるつもりなどなかったのだ。でなければあんな風には言わないからだ。
ヴィクトルは厳しいだけで誰かを見捨てるつもりはない。むしろ助けようと全力を尽くす。そう感じたアルマは、正直な気持ちをぶつけた。
「だったら、なおさらオレを頼れ‼︎」
「⁉︎」
「一人で抱え込むなって言ってんだ! 難しいことはよくわかんねーけど、失敗したから挽回するつもりなんだろ⁉︎ 何もかも背負って、一人で解決しようって! 怪我をしてまでも!」
「そ、そうだ……」
「ならちょっとはオレにそれ預けろ! 辛そうで見てられないんだよ!」
「辛そう、だと……⁉︎ 貴様の目は節穴か⁉︎ 僕が辛そうなどと…」
「和菓子なんだよ‼︎」
「……はっ?」
この状況では絶対出ないそのワードに、ヴィクトルは呆気に取られた。
「和菓子は一人じゃ出来ねーんだ! 材料を作ってくれる人、お店でそれを売ってくれる人、それを買って和菓子を作ってくれる人! 誰か一人でも欠けてたら和菓子は出来ないんだよ! 一緒に戦うのだって同じだ! どっちか欠けていたら上手くいかなくて当然なんだ! だから……まだ時間はかかるかもだけど、オレはお前のことをちゃんと知りたい! ちゃんと知って、どうするかちゃんと決める! そういうことだから、お前もオレのことちゃんと知ってくれ! そのためにまずはオレを頼ってくれ! オレはその……あれだ! 言ったことは必ずやる!」
「……有言実行ってやつか?」
「そうそれ! 絶対あの化け物はオレが倒す! だからお前は今出来ることをする! どうだ! ちょっとはチームワークできてるだろ⁉︎」
「……!」
これをチームワークと呼んでいいのかはわからない。が、アルマは確実にやるつもりだ。嘘はついていない。
「……信用していいんだな?」
「もちろん!」
「……わかった。なら貴様に託す。しくじったら承知しないからな……‼︎」
アルマは機械人が飛んでいった方角を見たまま、ヴィクトルにサムズアップサインを送る。
しばらくして、再び機械人が飛んできた。あの距離から跳躍して来たようだ。二人が避けると、機械人は地面を抉った。
「いいか⁉︎ おそらくそいつの弱点は爪以外の本体‼︎ 頭を狙えば仕留められるはずだ‼︎ 僕達でなんとかして動きを止める‼︎ 止まった瞬間にやれ‼︎」
「わかりやすい説明に感謝だな!」
ヴィクトルは銃を取り出して一度弾を全て出す。そして金色の三発分の弾を補充する。これは所謂、機械人専用麻痺弾と呼ばれるものだ。機械部分にウイルスを撃ち込み、一時的に動きを止める。しかし製造コストが非常に高く、おいそれと乱発できる代物ではないため、弾数も限られている。
「頼むぞ……チャンスは三回だ……‼︎」
ヴィクトルは狙いを定める。その間、アルマは機械人の動きを止めるため、動きが俊敏な機械人に立ち向かう。
「キエエエエエアッ‼︎」
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