7話 ファーストコネクト③
動きを止める方法として挙げるとしたら至ってシンプルだ。体を掴むことだ。アルマはまず抱きついて止める方法を選んだ。しかし近づいたら攻撃と命令されているのか、アルマが機械人との距離を詰め寄ると、すかさず爪を突き出す。アルマは右に避けたが、爪が頬を擦った。人工皮膚が少し破れ、機械部分が剥き出しになった。その一瞬を見切り、アルマは左腕を掴んだ。
動きが止まった。ヴィクトルが一発発砲した。しかし銃の音に気づいた機械人が左腕を掴むアルマの手から離れるため、アルマの腹を蹴飛ばした。
「がっ……‼︎」
思わずアルマは左腕を離してしまった。銃弾は二人の間を通り過ぎた。
「ちっ……‼︎」
「まだだ……っ‼︎」
蹴られたダメージを抱えながらも、アルマはなんとか立ち上がる。機械人の猛攻は止まらず、どうやらアルマに標的を絞ったのかすぐにアルマに襲いかかる。
「このっ……‼︎」
突き出された爪をアルマは体を仰け反って避ける。跳躍する機械人はすぐに着地する。
隙が出来た。すかさずヴィクトルは発砲した。しかしタイミングが合わずかわされた。
「あと一発……っ‼︎」
後がないと気づいたアルマは何か覚悟を決めたらしく、襲いかかってきた機械人を受け止めた。
「ぐうっ‼︎」
「⁉︎」
爪がアルマの左肩を貫く。電流がバチバチと漏れ出す。
「貴様、何を……⁉︎」
すると、アルマは機械人の両腕をガシッと掴んだ。どうやら自らを犠牲に隙を作ったようだ。
「今だっ‼︎」
「‼︎」
確かにこれはまたとないチャンスだ。ヴィクトルはしっかりと狙い、発砲した。奴は動けない。狙いも安定している。外れるわけがなかった。
が、予想は斜め上をいった。
銃弾は機械人の腕を狙っていたのだが、その腕が銃弾を弾いたのだ。まるで銃弾など効かないと言わせるかのように。
「……‼︎」
「なっ……⁉︎」
万事休す。そう思ったその時だった。
突然どこからか帯の様な布が飛んできた。布は機械人を拘束し、アルマを引き離した。
「⁉︎」
見ると、あちらでイサミが残っていた右腕で、アルマから託されたマフラーを操っていた。
「アルマ殿っ‼︎」
「‼︎」
イサミが作ったチャンスを無駄にはしない。アルマは負傷しながらも左手を義手に変える。
「おおおおおおおおおおっ‼︎」
ヴィクトルに言われた通り、アルマは頭を狙って殴った。機械人の頭部がひしゃげて外れた。頭を失くした体はそのまま倒れて停止した。
「……‼︎」
倒した。そう認識した。アルマは内心ほっとすると、イサミに体を向ける。
「イサミ……ありがとな!」
アルマは笑顔でサムズアップサインをイサミに送る。イサミもまんざらでもなさそうに頬を緩めた。ヴィクトルは安心したのかため息をつく。すると、アルマがヴィクトルに手を差し出す。
「信じてくれて、ありがとな!」
アルマはヴィクトルの腕を掴み、そのまま引き上げた。
「……貴様がいなければ、できなかっただけだ」
ヴィクトルは照れ臭いのか、アルマから目線を背けたのだった。
♢
避難所で襲われた人達の人命救助のため、イサミが呼んだ軍警の増援が活動を始めた。あと一歩遅かったら危なかった人もいたが、幸いにも犠牲者は出なかった。イサミの救援要請が上手くいった結果だ。
事態把握のため、増援に連れられながら誠が訪れていた。彼のそばにはアルマが心配でついて来た美香もいた。
「これはまた……派手にやったね?」
負傷したアルマ達三人を見て、誠は苦笑いを浮かべた。反対に美香は顔を真っ青にしている。
「ア、ア、アアアルマ君っ⁉︎ ボロボロになってるけど大丈夫なのっ⁉︎」
「あはは……ちょっと、やっちまった」
アルマは頬を掻きながら笑って誤魔化そうとした。
「笑い事じゃない‼︎」
美香は真剣な表情でアルマに迫る。
「まあまあまあ、大空君落ち着いて。今回は事態が事態だったからね。大丈夫。ちゃんとこちらで治療するさ」
誠からそう宥められたものの、美香は納得いかない顔を浮かべた。
「えっと、その……悪い! ミカ! エルトリアが悪さやってるってなったら、ほっとけなくて……でも安心しろ!」
アルマは自身を指差して自信あり気にこう宣言した。
「オレは絶っ対に負けたりしない! たとえボロッボロになったとしても、絶対にミカの元に帰るかんな!」
「!」
絶対に美香の元に帰る。そう言われるとなんか怒りずらい。美香はふうとため息をついた。
「……無理、もうしちゃダメだよ?」
「ああ! それに、これくらいで済んだのはこの二人がいたからこそだ!」
「大したことはしていない。アルマ殿に託されたものを使用しただけだ」
「でもピンチは逃れた! ありがとな!」
「お礼なら自分より、副官殿に言え。副官殿の作戦さえなかったら危なかった」
イサミはヴィクトルに視線を向ける。
「……銃弾は弾かれてしまった。イサミがいなければ死は確実だった。故に僕はあまり活躍してないぞ」
ヴィクトルは罰が悪そうに視線を背けている。
「でも、お前が作戦を立ててくれなかったら、オレはたった一人で闇雲に立ち向かってた。何より、お前はオレを信じてくれたろ?」
「……」
「イジワルとか言っちまって、ごめんな? お前にもちゃんと誰かを守りたいって気持ちがあったってこと、よくわかったよ。オレ、これからはちゃんと見るようにする! お前が何をしたくて何を考えているのか、それを見極める努力をするよ!」
アルマはヴィクトルに手を差し出す。
「改めてよろしくな!」
ヴィクトルは怪訝そうにアルマの手を見つめながら、恐る恐る手を差し出す。アルマはその手を自分から握った。
「あれ? 仲良くなった?」
「かもしれないな」
「そうだ! ちゃんと名前で言わないとな! ええっと確か……」
「……ヴィクトル」
「ヴィクトル……ちょっと堅っ苦しいし、オレはヴィクって呼ぶよ!」
すると、ヴィクトルの刃がアルマの顔の横を掠った。
「……ちょっとはマシになったかと思ったが撤回だ。やはり貴様は気に入らん」
ヴィクトルはアルマを睨んでその場を後にした。
「何でだあーっ⁉︎」
アルマはわあわあと喚いた。
「……やっぱり仲良くなってない?」
「まあ、ゆっくりゆっくり、だね」
「心配には及ばない。ああ見えて副官殿はまんざらでもなさそうだ」
終始和やかなムードだったが、避難所近くのビルの上から誰かがそれを見ていた。
「あーあ、やられちゃったかお」
ピンク色の髪に女の子らしい服を着た小柄な少女が、チョコのかかったポップコーンを食べている。少女は真顔で景色を見下ろしていた。
「やっぱりゴミ捨て場にあったスクラップをそのまま改造しただけじゃダメだったかお。次からは耐久性も考えないとだお」
少女は怪しくアルマを見つめている。
「あれがゼハート様がご執心の《無心の刃》かお? 確かに凄そうではあるけど、このキューちゃんにかかれば雑魚同然だお。あの子をめっちゃくちゃのぐっちゃぐちゃに壊してやれる日が楽しみだお~!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます