6話 共同戦線④
その日以降、誠の宣言通り、アルマはチームワークの特訓が繰り返された。
しかしなかなか上手くいかず、特訓中は常にヴィクトルはアルマに対して怒ってばかりだった。特訓が終わる度にアルマはくたくたになって休憩室のソファーでうなだれていた。
「ううう……今日もめっちゃ怒られた……」
そうぼやいていると、アルマの頬に冷たい感触がきた。
「?」
「今日もお疲れ様」
近くにいたのは、飲み物を持った誠だった。
「今日も見事に叱られたな」
誠はアルマの隣に座った。
「マコトの弟は短気なんだな」
「あいつは自分にも他人にも厳しいからね。でもあまり警戒しないでほしい。あれでも勝利はちゃんとアルマを良い方向に向かわせようと気を張っているんだ。あいつは真面目だから」
「ならなにも怒んなくていいのによ!」
「仕方ないさ。あれは勝利を改造した研究者の悪い影響だからね」
「けんきゅーしゃ?」
「ああ。イサミの開発者であり、勝利をサイボーグに改造した人だ」
興味を持ったアルマは誠の話を聞く。
「彼は非常に研究熱心で、故に非常に頑固な人だったんだ。思い通りにならないとすぐキレたり、自分とは違う考えを持つ人とはすぐに喧嘩したりしてね、まあ……ちょっと困った人だった。その気性は彼が開発、改造した機械人にも現れ出ていてね、彼開発の機械人はみんな手厳しく扱かれてしまっていたんだ。中にはあまりの厳しさに自らスクラップになった機械人もいたくらいだ」
そんなに厳しい人がいるのかとアルマは息を飲んだ。
「まあそれでも、イサミは良い方だった。前にも話したな? 彼女は樋口家に仕える機械人だって。彼女には元々、樋口家を守るという感情プログラムが設定されてあるから、ある程度厳しくても問題はなかった。元の性格プログラムが真面目だからってのも良い影響ではあった。が、問題は勝利の方だった。今じゃ考えられないだろうけど、実は彼、元々泣き虫で臆病な性格だったんだ」
「あいつが⁉︎」
臆病で泣き虫だなんて、今の彼からは想像もつかない。アルマはびっくりして肩を震わせた。
「小さい頃は私の後ろに隠れがちでね、これくらいの小さな虫でもギャン泣きしてたんだ。私にとっては可愛い弟だから、嫌な思いはしてなかったよ。が、ある時どういうわけか、急に私を守りたいって言うようになってね、十四の時に戦闘用機械人になったんだ」
「!」
「ただ、さっきも言ったように開発者がとても厳しくてね、調整当初は毎日のように泣いていたよ。これじゃあ何の為に改造されたんだって、ずっと口癖のように愚痴っていたんだ。状況が変わったのはそれから一年後。その開発者が実験中の事故に巻き込まれて亡くなった時だ。己の無力さってのを改めて感じたんだろうな……以来、あいつは自分に厳しくなった。きっと、あいつにとって君は昔の自分みたいで放っておけないのかもしれないだろうね。敢えて厳しくしてるのは、あいつなりの愛情みたいなもんだろう」
自分は昔のヴィクトルに似ている。厳しくしているのは放っておけないから。初めて知ったヴィクトルの本音に、アルマは深く考えさせられた。だがそれでも、もう少し自分のことも知ってほしい。似てるとはいえ自分はヴィクトル本人ではない。自分にだって譲れないものがある。せめてそれだけでもわかってもらいたい。ならどうすれば良いか。アルマは頭を悩ませていた。
♢
「そうねえ……まずはその人を知ることからかしらね」
詩音が腕を組んでうんうんと頷いている。その日もアルマは先日と同じように、学園で詩音と個別指導を受けていた。チームワークと言うキーワードが突っかかっていたアルマは、どうすればいいチームワークになるか、課題のドリルに苦戦しながらも詩音に相談していた。
「知る?」
「相手のことを知らずにチームワークなんて、知識ゼロで壊れたテレビを直すくらい非常に無理な話だからよ。まずは相手のことを知ること。その人が何を思っているのか、その人が何に対して怒っているのか、考える努力が必要ね」
とりあえずアルマは、最初の特訓の時のヴィクトルを振り返る。
何故あの時ヴィクトルは怒っていたのか。
自分が逃げたから。
何故逃げたことに対して怒っていたのか。
まだ敵がいて攻撃してくるから。
しかし攻撃は激しかった。
あのままいたらやられるのは確実。
だから逃げたのに怒っていた。
何故、何故、何故。
考えるうちにアルマの頭から湯気が出てきた。
「ア、アルマ君っ?」
「だあああっ、ダメだああーっ‼︎ 考えても考えても答えが見つかんねー‼︎」
「落ち着いて落ち着いて! ほら、深呼吸して。深呼吸」
言われるがままアルマは深呼吸をする。
「悪いなシオン……ちょっとパンクしてた」
「そんなになるくらい相手は難しい人なの?」
「だってすぐ怒るし、ガミガミ叱るし!」
「あらら……それは難しいわね。でもさ、本当にその人は何の理由もなく怒るのかな?」
「え?」
慰めてくれるかと思っていたアルマにとって、それは想像してなかった返答だ。
「だって、誰かに対して怒っていたり、叱ってくれたりするってことはさ、その誰かのことを考えてるってことじゃない? そりゃあ、理由もなく怒る人もいるにはいるわ。でももし考えていないなら叱らず無視すればいいのに、その人はアルマ君のことを見ていたんでしょう? じゃあ、何か理由があるんじゃないかな?」
「理由……」
確かにヴィクトルは無視はしていなかった。それに自分では気づかなかった非を指摘していた。よくよく考えれば、ヴィクトルが理由無しに叱る要素なんてなかった。なんだかんだでちゃんとアルマを見ていたのだ。
「あいつはちゃんと見ていたってことなのか……?」
「おっ、ちょっとはわかったかな? もう少ししたら、今度は君からその人に自分のことぶつけてみたら? その人の反応次第で付き合い方を考えるといいわ」
「オレのこと……」
自分がヴィクトルに伝えたいこと。それを考えていた時だった。
窓ガラスがガタガタと揺れたかと思ったら、突然上空からヘリが飛んできたではないか。
「ええっ⁉︎ な、何っ⁉︎」
動揺する詩音を他所に、アルマは窓を開けて確認する。ヘリから強く風が吹く。すると、ヘリのドアが開き、そこからヴィクトルが現れた。
「お前!」
「えーっと! どちら様ですか⁉︎」
詩音からの問いに、同乗していたイサミが答える。
「突然の来訪失礼する! こちら軍警! 緊急事態のため来訪した!」
「またエルトリアの機械兵が出た! 大至急来い!」
今から色々考えようと思った矢先の事態。アルマは一瞬困惑しながらも、エルトリアがまた何か企んでいるのならと、意を決してヘリに乗り込んだのだった。
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