4話 守るべきもの④
手錠をかけられたまま連れて来られた場所は、軍警の本部だった。
とりあえず美香とアルマは、ヴィクトルと青髪の女性について行く。
「あ、あの……」
「発言は許可していない。局長と面談するまではしばし黙っててくれ」
「は、はい……」
気迫あるヴィクトルの佇まいに、美香はしゅんとなった。一方で美香を落ち込ませたと思い、アルマはむっとなった。
しばらくして、大きな扉の前にたどり着いた。
「局長! 連れて来ました!」
「どうぞ」
扉が自動で開いた。
そこにいたのは、軍警局長、樋口誠だった。誠は書斎の椅子に座ってこちらを見ている。
「その二人が例の?」
「はい。解析用の画像とも一致してます」
初めての軍警の本部、そして局長に、美香は緊張で固まっていた。
「おいミカ! こいつ誰だ?」
アルマが小声で尋ねる。
「ぐ、軍警……町の平和を守る人達だよ。で、この人はその軍警の一番偉い人……」
「まずは手荒な真似をしてすまなかったね。私は常に慎重なタイプだからつい、ね。イサミ、手錠を外してあげなさい」
「はい」
イサミと呼ばれた青髪の女性は手錠を解錠した。とりあえず解放され、二人はほっとした。
「まあまずは座りたまえ。話をしよう」
誠に言われ、二人は近くのソファーに座った。
「ああ君、武装は解除してもらっていい。堅苦しいのは苦手でね」
「?」
おそらくアルマのパワードスーツのことを指しているのだろう。
「人間バージョンに戻ってって言ってるんじゃないかな?」
「ああ、そういうことか!」
すでに戻る方法はミネルヴァから指示されている。人間時の姿をイメージするのみだ。
アルマはがっちり装備された姿から、普通の青年の姿に戻った。
「へえ……《換装システム》か……珍しいのを使ってるんだね?」
「そ、それで、私達に何か……?」
「そうだね。単刀直入に聞こうか。イサミ、映像を」
イサミが手に持っていた端末を操作し、空中に映像を映し出す。映し出されたのは、先日アルマが戦っていた時の映像だった。
「あの機械の化け物を倒したのは、君だね?」
「? ああ、そうだけど?」
「理由を聞かせてもらえるかい?」
「理由……んなもん一つだ!あいつがミカを怖がらせたからだ!」
堂々と答えたその時、ヴィクトルの刃がアルマに突き出された。
「⁉︎」
突然のことにアルマと美香は硬直した。ヴィクトルはジロリとアルマを睨みつける。
「貴様、言葉には気をつけろ。局長の前での不遜な態度は許さんぞ」
失礼な言葉だったのかと美香は冷や汗をかく。
「ヴィクトル」
誠の冷静な発言に、ヴィクトルは静かに下がる。
「すまないね。つまりはあれかい? そこにいる彼女のために戦った。てことでいいのかな?」
「ああ!」
「それはさっきの戦いもかい?」
「もちろん! ミカの大事な場所を壊すのは許さねーからな!」
「!」
フリースクールは大事な場所。そう言ってくれたことに美香は嬉しく思えた。
「……君はそこの彼女を強く想っているね?何か彼女に特別な理由が?」
「ミカはオレの大切な人だ!」
「⁉︎」
またしてもストレートな発言に美香は赤面した。
「ミカはオレに心を思い出させてくれた。だからその恩は返さねーとな!」
「……純粋だね。うん、とても純粋だ」
誠の顔が綻んだ。その様子にヴィクトルが咳払いをする。
「おっと、話がちょっと逸れたね。結論から言おう。我々に協力してほしい」
「協力、ですか?」
「ああ。先のエルトリア復権についてはすでに聞いてるね?」
イサミが映像を切り替えた。あのホログラムの映像だ。
「千年前に存在した国にして、今の我々の文化を作り上げた、エルトリア帝国。が、国自体は異常だった。機械を利用し、世界征服を目論んでいた。あの最終戦争で負けていなかったら、今の平和はないだろうね。そのエルトリアもとい皇帝、ゼハート・ヴィ・エルトリア。最終戦争で死んだはずの彼が何故今現れたのか。再び侵略する気か、復讐か、未だ詳細は掴めていない。ともあれ、人々に害なすのは確かだ。放置するわけにもいかない。そこで君だ」
「?」
「すまない。色々と調べさせてもらった」
誠はイサミから資料をもらう。
「君は立場上、難民扱いとされてはいる。だが君は千年前の人間。エルトリア時代から生きていたらしいね。もしかしたら、何か知ってるんじゃないか?」
「あっ……それは難しいと思います。彼は記憶喪失なので……」
「そうなのかい? ああでもそうか。千年間も眠っていたのなら無理もないか」
誠は思案顔を浮かべた。
「……しかし局長。重要なのはそこではないかと」
「それもそうだね。重要なのは記憶ではなく、君の存在そのものだ。君はあの千年前の機械を倒した。普通の戦闘用機械人では難しかったことを、君はいとも簡単に成し遂げた。つまりは……わかるね?」
「あ……」
美香はなんとなくだがぴんときた。アルマだけがあの機械兵に対抗できる。誠はそう言いたいのだろう。
しかし肝心のアルマはぴんときておらず、首を傾げていた。それを見ていたヴィクトルが呆れてため息をつく。
「貴様だけがあの機械兵を倒せる。局長はそうおっしゃられているのだ」
「そう。今この危機に立ち向かえるのは、現状君だけとなる。我々軍警では手に負えない。だからこその協力だ」
誠はアルマに対して手を差し出す。
「協力してもらえるだろうか? この世界の平和のために」
「あ、あの! それって、あの機械の化け物と戦ってくれってことですよねっ?」
美香が慌てて間に入る。
「ああ、そうなるな」
「そ、それはできませんっ! アルマ君にそんな大変なこと…」
すると、アルマが美香の肩に手を置いた。
「アルマ君……?」
アルマは誠に対して真剣な表情を浮かべた。
「難しいことはよくわからねえ。でも、美香やこの世界を、あいつ、エルトリア皇帝って奴はぶっ壊そうとしてる。それを止められるのはオレだけ。そういうことなんだな?」
「……そうだね。今のところは」
アルマは自身の右手を見つめ、握り締めた。
「……わかった! やってやる!」
「ア、アルマ君っ⁉︎」
「だが一つ約束してくれ! オレが一番守りたいのはミカだ! だから、オレに何かあったらミカを守ってくれ! そうしてくれるなら協力してやる!」
その要望が一方的な要望と聞こえたヴィクトルは、目をかっと見開いた。
「なっ、貴様……‼︎ 局長の提案にそんな条件など……‼︎」
ヴィクトルがかかろうとしたが、誠が無言で制止する。
「局長‼︎」
「大丈夫だ」
ヴィクトルは苦し紛れに下がった。
「……ああ、わかった。彼女の身の安全は保証しよう」
「⁉︎」
「よろしいのですか? 局長殿。彼女は……」
「わかってるよ。一般市民一人だけのために交渉するなんてどうなのか。そう言いたいんだろ?」
「いえ……自分は別にそうとは……」
「……これはあくまで私の直感なのだが、彼からは強い何かを感じる。それはおそらく、あの皇帝にはないもの。そして少なくとも、悪意ではないもの。それがこの危機を打破する鍵になるかもしれない。なら、その何かを信じようじゃないか。私はそのためならなんだってやるよ」
再び誠は手を差し出す。
「?」
「協力に対する感謝さ。握手は知っているかい?」
とりあえずアルマは手を取った。誠がその手を握り返した。
「!」
「頼むよ」
「あ……ああ! なんかわかんないけど、あんた良い人なんだな!」
「それはどうも。ああ、自己紹介が遅れたね。樋口誠だ」
「まこと……マコトか! オレは…」
するとまた、ヴィクトルの刃が突き出された。
「貴様……‼︎ 局長を名前はおろか下で気安く呼ぶとは、いい度胸ではないか……‼︎」
ヴィクトルはアルマをギロリと睨んでいる。
「す、すみません! 彼、ちょっとまだマナーとかがわからない状態でして!」
さすがにまずいと感じ、慌てて美香はアルマの頭を下げた。
「構わないよ。君の好きなように呼ぶといい」
「しかし局長‼︎」
「心配ないさ。お前もそうかりかりしなくていい」
「……」
ヴィクトルはアルマに鋭い眼光を放ち、すっと下がった。
「すまないね。彼はヴィクトル。私の弟だ」
「お、弟さんでしたか……あれ? でも名前が……」
「ああ、ヴィクトルはコードネームみたいなもので、本名は樋口勝利だ。で、そっちにいるのがイサミ。軍警隊員で樋口家直属のアンドロイドだ」
イサミは礼儀正しく一礼する。美香も何気に礼を返した。
「それと、私は軍警局長の傍ら、こんなのもやっている」
そう言いながら誠は美香に名刺を渡した。名刺には、《機械人保護団体 IMP大使 樋口誠》と書かれていた。
「機械人保護団体?」
「そこの彼は立場上では難民扱いとされていると言っていたね? 機械人はその特殊な人種柄故に、不遇の立場に置かれていることが多い。彼みたいに、身内が不明で行く宛がない者とかね。そこはそうした人達をサポートしているんだ。里親となる保護者を探したり、就職先を決めたりとかね。何かあればここを頼るといい。力になってくれるはずだ」
「すみません! わざわざありがとうございます!」
美香はぺこりと頭を下げた。
「……君も頑張りたまえよ。君は仮にも彼の保護者……いや、大切な人なんだ。しっかり彼を支えてやってくれ」
とりあえず話は終わったため、誠は二人を帰してあげた。美香は誠に頭を下げ、アルマは手を振った。終始アルマの態度が気に入らなかったのか、ヴィクトルは眉間に皺を寄せていた。
「良かったじゃないか、勝利。これでお前の負担も減るかもだぞ?」
「……いえ、別に必要ありません」
「……それより、今日起きた事件の件だが」
「あの戦車型機械のことですね」
イサミが写真を空中に投影した。
「調べによると、タイプは移動型R6のプロトタイプナンバー。先日の機械兵同様、千年前のモデルかと」
「非戦闘型にも関わらず無理矢理改造され、しかもワープ機能を搭載していたらしいな? これも皇帝の差金か……?」
「わかりません」
「狙われていた場所は未来学園。確かフリースクールだったな?」
誠は資料を目に通す。おそらく生徒の個人情報であろう。その中には美香の個人情報があった。
「それは、あの少女の?」
「ああ。大空美香君。去年の秋頃にこの学園に来たとのことだ。現在の保護責任者は、親戚である黛穂乃果と言う女性が担っているそうだ。というのも彼女の実の両親、去年逮捕されたらしい」
「逮捕?」
「……まあ、色々あってな」
誠にはその詳細は見えていたが、敢えて話さなかった。イサミは不思議そうに首を傾げる。
「さて……考えるべきことは山ほどあるが、とにかくまずは彼、アルマだ。彼にもこれからやるべきことが山ほどある。それがどう転がるか、見届けてやらんとな」
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