4話 守るべきもの③

 とりあえずもう危険性がないと感じたのか、避難していた生徒達が動かなくなった戦車の元へ集まってくる。


「これどーすんだよー?」

「さっき学長が軍警に電話したってらしいよ?」


 皆が戦車に注目しだす一方、機械人の生徒達はアルマに迫っていた。


「すごいぞあんた‼︎ あんたみたいな機械人は初めてだ‼︎」

「お前は俺達機械人のヒーローだ‼︎」


 機械人、特に男性に位置付けられる機械人達がアルマを賞賛していた。肝心のアルマ本人はどう対応していいかわからずおろおろとしている。

 その一方で女性に位置する機械人二人が美香に話しかける。


「あの機械人、大空さんの知り合いなんだって?」

「羨ましい~。あんなイケメン見たことないわ!」

「えっと、その……」


 美香も何と返していいかわからない。


「アルマくーん!」


 そこへ、零が駆け寄って来た。


「あっ、学長だ!」


 零は息を切らしながら顔を上げた。


「アルマ君! 学校を守ってくれて、本当にありがとう! 何とお礼を言ったら……」

「いやいやっ、礼なんていらないって! ミカとミカの友達を守りたかっただけだから!」

「それでも学校を守ってくれたのは事実だ。みんなの居場所を守ってくれて、ありがとう!」


 生徒からも感謝の言葉が飛び交う。慣れない光景かアルマは照れ臭そうに頬を掻く。

 零は息を整えると、意を決したように周りの生徒に目配せした。


「……みんなに提案がある。彼がもしこの学校に来てくれるとしたら、どうかな?」

「!」

「えっ、ここにっすか?」


 生徒達は一瞬だけきょとんとした。


「彼は色々と訳ありでね、社会勉強という意味でここで学んでもらいたいと僕は思う。みんなはどうかな?」


 すると、生徒達の顔が明るくなる。


「全然良いですよ! 大歓迎です!」

「はい! 学校を救ったヒーローですし!」

「少なくとも俺達機械人は歓迎しますよ!」


 アルマのことを拒む生徒は誰一人いない。皆彼のことを歓迎している。


「……まあそんなわけで、みんなこうして歓迎してくれてるんだ。大空君、君はどうだい?」

「わ、私は……」


 すると、突然アルマが背後から美香を抱きしめる。


「わっ……⁉︎」


 あまりの勢いに思わず美香は倒れそうになる。


「ミカと一緒にいられるのかっ?」

「ああ。ただし、彼女だけでなく、ここで色んなことにも目を通すこと。それを約束できるなら、僕は歓迎するよ」

「……!」


 アルマの表情が輝いている。


「ミカ! オレここに行きたい! てか、ミカと一緒にいられるならどこだっていい!」

「ア、アルマ君……」


 アルマの期待の眼差しに対して、美香は断りにくかった。


「……大空君は嫌なのかい? 彼と一緒にいて、不愉快だと感じるかい?」

「!」


 不愉快だなんてとんでもない。アルマと出会ってからは驚きの毎日だ。見ているこちらが元気をもらえるくらいに。不愉快ならもうとっくに見捨てている。


「……じゃあ、ちゃんと勉強するって約束できるなら」

「いいのかっ?」

「うん」

「じゃあ頑張る!」


 アルマは嬉しそうに美香を抱きしめた。嬉しそうな彼の表情に、美香は照れながらも胸が弾む。

 その時だった。突然悲鳴が上がった。


「おいおいおい⁉︎ まだこいつ動くぞ⁉︎」


 完全に停止したはずの戦車が、ぎしぎしと音を立てて起き上がろうとしている。アルマは美香を背後に隠して構える。アームの一本がアルマに向かってきた。


「っ‼︎」


 美香は思わずぎゅっと目を瞑った。

 すると、ガキンッと金属音が鳴る。


「……?」


 美香はそっと目を開ける。見ると、アームの一本が切断されていた。

 その近くには、きっちりと切られたシルバーブロンドの髪の青年が立っていた。青年の右手部分にはナイフの様な刃が生えている。

 青年がこちらを振り向く。青年の瞳は赤く、全身が白いせいでよく映える。


「……⁉︎」


 異質な感じを醸し出す青年に、美香もアルマも目が離せなかった。それは周囲にいた生徒達も同じだ。


「何だ、あいつ……⁉︎」

「あ……俺、あいつ知ってるぞ……! 確か、軍警のスペシャルコップ、ヴィクトルだ!」

「軍警の⁉︎」


 周囲がざわつく中、ヴィクトルと呼ばれたその青年は美香とアルマに近寄る。


「お、おおっ! 助けてくれてありがとな! お前も機械人かっ?」


 アルマの問いには答えず、ヴィクトルは刃をしまい、右手の人差し指を真下に降り、半透明のウィンドウを出した。見た感じどうやら何かの証明書らしい。


「軍警副官兼スペシャルコップ、ヴィクトルだ。先日の機械兵騒動における事情聴取のため、身柄を拘束させてもらう」


 彼の周囲に、軍服姿の人間達が並ぶ。


「えっ? はっ?」


 二人が呆気に取られていると、突然二人の手に頑丈そうな手錠がかけられた。


「は、はい⁉︎」


 手錠をかけたのは、軍服を着た長い青髪の女性だった。肌が陶器みたいに綺麗なその女性は、冷静な表情でこちらを見据えている。


「すまない。念のためだ。機械人はともかく人間の方は悪く思わないでほしい」

「お、おい! ミカに何する気だ⁉︎」

「安心してほしい。悪いようにはしない」


 なす術もなく二人は車に乗せられてしまった。


「あああっ⁉︎ 大空さんがっ⁉︎」


 それを見ていた環が慌てふためくが、どうすることもできず車は走り去ってしまった。


「どどどどうしましょう部長⁉︎」

「どうするって言われても‼︎」

「……あ、軍警来たんなら、あれ処分してもらいたかったな」

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