4話 守るべきもの②
未来学園の学長、もとい代表は、水無月零と言う男性がやっている。その男性は学長にしては若い人だった。おそらく大学生ぐらいだと推測される。明るめの茶髪にラフな格好をした、美容師に見間違えそうな男性だ。美香はアルマと共に学長室のソファーに座った。その男性、零はアルマを見てじっと観察していた。
「へえ……サイボーグ……」
「あ、あの、学長先生! 決して悪い人ではないので!」
「わかってるよ。安心して。しかし驚いたよ。まさか大空君にサイボーグの知り合いがいたとは。君、大空君に会いたくて来たのかい?」
「ああ!」
「それはどうして?」
「ミカが心配だったから!」
「心配?」
「ミカを一人にさせたら危ないから!」
「もう……だから大丈夫だって……」
元気に答えるアルマに対して、零はふふっと笑みをこぼした。
「君、随分と大空君に懐いているね。大空さんのことが好きかい?」
「もちろん!」
「⁉︎」
ストレートすぎる答えに美香は顔が赤くなった。
「ミカはオレに心があることを思い出させてくれた。それに、ミカのそばにいると不思議とすっげー安心するんだ。だから、ミカはオレが守ってやらねーと!」
「……優しいね、君は。どうだい? 良かったらうちの学園に通わないかい?」
「が、学長先生! それは……」
「僕は君みたいな子が成長するのを見るのが好きでね、君からは無限の可能性を秘めているように見えるんだ」
「むげん?」
「何にでもなれるってことだ。君は大空君を守りつつ、世界を知っていく。多分それはとても素敵なことだ。大空君にとってもね」
「!」
「だって大空君、彼といるといつもより明るく感じられるんだ。違う?」
あながち間違いではなかった。彼と出会ってからは、いつもの日常が少しだけ楽しいと感じられる気がした。まだあまり実感は湧かないが。
「お互いの存在がきっと必要なんじゃないかな? ならなおさら、一緒に通うと良い」
笑顔で諭す零に、美香は何て返せばいいかわからない。反論はないが肯定するのも違うと思う。そんな訳がわからない状態だった。
「……あの、学長先生。私…」
美香がとりあえず返そうとした、その時だった。
突然ズガンと重い音が鳴ったと共に校舎が強く揺れだした。
「きゃっ……⁉︎」
「ミカ!」
アルマは美香を自身の脇に寄せて守る。揺れはすぐに収まった。
「二人共大丈夫かい?」
「は、はい!」
すると、外から騒ぎ声が聞こえてきた。何事かと思い、零と美香は窓の外を見た。
「あっ……⁉︎」
《それ》を見た美香は絶句した。
校門近くに、赤く塗られた戦車の様な機械がいきなり現れ出たのだ。いや、戦車と言うにはデカすぎる。何かおかしい。そんな気がしてならない。校庭にいる生徒はもちろん、異変に気づいた校舎の生徒達が、皆それを見ていた。
「何だありゃ⁉︎」
「でっかい機械⁉︎」
皆がそれに注目していた時だった。突然戦車がガタガタと震えだし、そこから無数の触手の様なアームが生えてきた。すると、アームの一本が校門近くの木々や花壇を踏み壊した。あまりの破壊力に生徒達は慄いた。次々とアームが周りのありとあらゆるものを破壊していく。
「ば、化けもんだっ‼︎ 機械の化けもんが出たあああっ‼︎」
生徒達は怯えて慌てて校舎へ避難する。
「大空君! 手伝って! 外に出ている生徒に避難指示を!」
「は、はい!」
美香は急いで零の後をついて行こうとした。すると、アルマが窓を開けてそこから飛び出した。
「ア、アルマ君っ⁉︎ ていうかここ五階‼︎」
美香の制止も間に合わず、アルマは窓の屋根を伝って降りていく。一番下の地面に降りると、逃げる生徒達とは反対の方向を走る。
「えっ⁉︎ ちょっと君‼︎ 危ないよ⁉︎」
一人制止する者もいたが構わず走る。校門近くには、先程アルマが話しかけたあの女子生徒が座り込んでいた。どうやら恐怖のあまり腰が抜けてしまったらしい。
「あ、ああ……‼︎」
女子生徒は体を震わせ怯えていた。戦車のアームが女子生徒を潰さんとした。
「っ‼︎」
その刹那、アルマが女子生徒を抱きしめ、アームから回避した。
「ここは危険だ! 早く安全な場所へ!」
「う、うん……!」
「ひな~‼︎」
女子生徒の友達が駆け寄ってきた。アルマは戦車の方角に向かって走る。
「大丈夫だった⁉︎ 誰かが助けてくれたの⁉︎」
「あのイケメン君だよお~‼︎」
二人は並んで校舎へ避難した。戦車が校門を突破して敷地内に侵入しようとする。
「このっ……‼︎」
アルマは戦車を止めようと体を張って押し戻そうとする。なんとか動きは止まっている。それを遠目から見ていた生徒達からおおーっと歓声が上がった。
「マジ⁉︎ あいつ止めてんぞ⁉︎」
「なんつー怪力だ‼︎」
しかし、邪魔だと感知されたのか、戦車が激しくタックルをした。
「うわっ⁉︎」
アルマを弾き飛ばし、その勢いのまま戦車は校庭へ向かって走りだす。その間にもアームは無作為に暴れ、周囲のありとあらゆるものを破壊していく。
「部長‼︎」
「早く早く‼︎」
ちょうど外にいた宗介、修、環が逃げている。
「待って、待って……‼︎」
宗介は息を切らしながら走っている。すると、ナイター用のライトが、アームによって破壊された。ライトがゆっくりと倒れていく。
「部長っ‼︎」
「えっ……?」
ライトが宗介に向かって落下する。
「あれは……⁉︎」
アルマが宗介に気づいた。ライトにぶつかる。アルマは走りだすが今の速度では間に合わない。
(ダメだっ……あの姿じゃなきゃ速度が出ない……‼︎)
すると、アルマははっと気づいた。自分の首に付けられたチョーカーだ。
(そうだ……あの姿なら、守れる……‼︎)
意を決してアルマはチョーカーに付けられた星のモチーフに指先で触れた。
心臓部のアロンダイトスフィアが、眩い光を放って輝く。
ライトが宗介の目の前にまで迫る。
(もう、ダメだっ……‼︎)
宗介が覚悟を決めて目をぎゅっと瞑る。その直後、突然体がふわっと浮く感覚がした。
「……⁉︎」
ライトがガシャーンと音を立てて落下した。しかし宗介自身にはぶつかった感覚がしない。瞑っていた目を開けると、いつの間にか自分の体はライトを通り過ぎていた。
そして、自分は誰かに抱き抱えられていた。無事に着地すると、その人はそっと宗介を降ろした。
「大丈夫か⁉︎ ソースケ!」
その声は聞き覚えがあった。宗介の目の前にいたのは、初めて会った時の、パワードスーツを纏ったアルマだった。
「君は……⁉︎」
「部長~‼︎」
修と環が駆け寄って来た。
「はっ⁉︎ あなたあの時の⁉︎」
「よくわからんが、部長を助けてくれてありがとう!」
戦車のアームがまた何かを破壊した。危機を察知してアルマが三人に向き直る。
「早く逃げろ! ここは危険だ!」
「う、うん!」
三人は急いで校舎へ向かった。戦車がアルマに狙いを定める。無数のアームがアルマに向かって突き出される。アルマはそれを避けながら戦車に近づく。
「あの本体さえ破壊できれば……!」
アルマは跳躍し、拳を突き出そうとした。しかし、アームの一本がアルマを振り落とした。
「がっ……‼︎」
アルマは踏ん張って受け身で着地する。
「くそっ……!」
アームをなんとかせねばと思っていた矢先だった。突然戦車の動きが一瞬だけ止まった。
「⁉︎」
見ると、誰かがアームの一本を掴んでいた。
全身が機械で出来ている。明らかに機械人だ。その機械人がアームを止めていた。
「お前……⁉︎」
「俺が止める! だから、早く!」
「手伝うぞ!」
「力自慢の機械人は来い!」
次々と我先にと機械人の生徒がやって来てはアームを一本ずつ止めている。
「頼む! 学校を守ってくれ!」
「みんなを助けて!」
「……‼︎」
機械人が皆アルマに全てを託した。それに察知したアルマも覚悟を決める。左手がリボルバー付きの義手に変化した。全てのアームが機械人達に止められ、戦車の動きが止まった。アルマは走りだし、高く跳躍する。左手をぐっと握りしめる。
「これで終わりだあああああああっ‼︎」
突き出された拳が戦車を貫いた。戦車は電流を漏らし、そのまま動かなくなった。
「やったか……⁉︎」
アームに力が入っていない。完全に停止したようだ。
「と、止まったぞおー‼︎」
避難していた生徒達から歓声が上がった。
「かっちょええヒーローがやっつけたぞー‼︎」
「てかあいつ、よく見たらこの間開発地区救った奴じゃね⁉︎」
「最高ーっ‼︎」
みんなしてアルマを讃えていた。校舎に避難していた美香も、窓からその様子を見ていた。美香がいたのは三階だったが、すぐにアルマは姿を捉えた。
「!」
アルマは美香に向かって笑顔でサムズアップサインを送った。彼の笑顔に美香の胸が弾む。
「あのヒーロー、テライケメンなんですけど⁉︎」
「素敵ーっ‼︎」
しかしそれを逃さなかった女子生徒達が、自分達に向けられたと思ったのか興奮しだしたのだった。
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