第13話 強制召喚も悪くない


 魔王との戦いで、宝珠の力を全て使い切ってしまい、最後の召喚が終わってから数十分。

皆んなは大丈夫だろうか?

1日だけで良いから頑張ってくれと願っている時、もう今日の召喚は無いと思っていたが急に腕が熱くなってきた。

「腕のアザが!どうなってんだ?!」

 突然わからないまま召喚された……。


―――――――――――――――――――――――

 召喚される数十分前……。

 「……終わったな……。 戦士を召喚出来なければ私を倒せる者はいない……。1日もかけずにこの世界を滅ぼしてやろう……」

 そう言うと魔王の根や枝が瞬く間に広がり始めた。


 全てを飲み込んで行く。

 魔王の前にいるエルン達は世界が滅んで行く姿をただただ眺めるしか無かった……。

 「……どうだ?……世界樹の巫女達よ……この世界が滅んで行く光景は……」


 「………剣児様……」

 「……くそ……」

 「剣児さん……」

 「剣児……」


「……………まだ……まだです!……お兄様は私達の勇者様です! きっと来てくれます!」

「でも、もう今日呼ぶ事は出来ないだろ……」

「そうですね。……魔王は1日あれば世界を滅ぼすなんて簡単でしょう……」

 ライムス、エルン、シャム、は完全に戦う気力を無くしてしまっている。

「いえ!ベリーさんの言う通りです!私達が諦めては駄目です!」

 ラミュは宝珠を握りしめ、祈り始めた。

「剣児さん……」

 宝珠が光始める。

「……ほう……そんな事をして良いのか?」

 魔王が光出した宝珠を見て問いただす。

 光輝き出した宝珠は俺を召喚すると共に、ヒビが入り、パキンっと音を立てて砕けてしまった……。


「剣児さん!」

「剣児!」

「お兄様!」

「剣児!」

「剣児様!」


 皆んなが俺を見てびっくりしているが、俺もびっくりしている。

「俺なんでこっちに……?」

「願いが通じたようです!行きましょう!剣児さん!」

 聖剣を渡された俺はラミュと一緒に魔王に向かって走り出す!


「無駄な事を……」

 魔王は枝で攻撃してくるが、俺の攻撃は魔王の枝を傷つける事が出来た。

 それを見たラミュはすかさず俺を魔王の顔まで飛ばすが枝の攻撃に弾かれる。


「皆さん!見てください!剣児さんの攻撃で魔王に傷をつけられました!」

 その言葉を聞いた皆んなは立ち上がり、もう一度戦う布陣をとる。

 魔王の攻撃はなんとか捌けるようにはなってきたが、傷をつけるのがやっとだ。

 皆んなの援護でも、枝が邪魔で魔王の顔までは辿り着かない。


 そして時間になった。

「皆さん!行きましょう!」

 エルンの号令と共に皆んなが魔王に向かって走り出す。

 召喚された時はライムスの宝珠が砕けた時だった。


「剣児!」

 聖剣を投げ渡され、邪魔な枝を薙ぎ払うと……切れた!

「これならいける!」

 しかし枝や根が多く、本体にはたどり着かない!

 「ちきしょう!」

 枝を伐採しているだけで時間となってしまった。

 次に召喚され時は魔王の本体まで後半分って所まで来ていた。

「お兄様!」

 ベリーが召喚したようで、ベリーの宝珠が砕けているのが見える。


「私達が道を作ります!お兄様達は前へ!」

 さっきまで効いていなかったベリーの炎が魔王の枝を焼いている。

 ラミュやライムスも根を切ったり、へし折っている。

 シャムとエルンを連れて本体まであと少しの所で、戻ってしまった。

 すぐさまシャムに召喚されると、無数の尖った枝が襲ってくる。

 この数は捌けない!

 そう悟った俺は身を盾にして2人を守ろうとしたが、シャムが飛び出す。

 首にかけてあった宝珠は砕けてしまっている。


 シャムは素早いナイフ捌きで無数の枝を切り、弾いた。

 「剣児!あとは私に任せな!」

 そう言うとシャムは無数の枝に突進し、人が通れるくらいの穴を開ける。

「急いで!」

 シャムの開けた穴を通ると魔王本体の顔までなんとか辿り着く。


 勢いそのままに俺は魔王目掛けて突進し、邪魔な枝を数本切り落とすが、太い枝に吹き飛ばされた。

 この召喚で決めたかったが、決め切れず時間になってしまう……。

 最後の召喚まで5分くらい間があったが、召喚された時は皆んなが魔王の目の前まで集まっていた。


「剣児様!」

 各々が声をかけてくるが皆んなボロボロだ。

 ラミュは白い体毛が赤く染まって口からも血を流している。

  ライムスは鎧いもボロボロになり、黒くて長い髪がバッサリと切れている。

 ベリーの杖は折れていつも被っていた帽子が無くなり、膝からも血が流れている。 ロープも穴だらけだ。

 シャムはナイフが無くなったのか、自慢の爪がボロボロになり血が流れている。


「エルン!早く皆んなに回復を!!」

「お兄様!いいんです!」

「エルン様の魔力は剣児のために残しておかないとな」

「剣児のためなら私もう少し頑張っちゃうよ……」

「私達は剣児さんの道を開けました。 後はお任せします」

 最後に無理矢理召喚したためにエルンの宝珠もヒビが入り砕け散った……。


 その時、宝珠の輝きはエルンへと集まり、エルンの手に1つの光輝く宝珠が生まれた。

「これは……」

 宝珠はエルンの手を離れ、俺の持つ聖剣へ。

 聖剣の形が変わると共に俺の体も光り出し、体の中から力が溢れてくるようだ。


「剣児様、お願いします」

 エルンがこちらを見ると同時に皆んなも俺を見て頷く。


「うおおお!!」

 俺は魔王まで走る!

 魔王が枝で攻撃してくるも、俺の前で動きが止まる。


「なんだとおおお!!」

 魔王も自分の攻撃が届かなくなった事に驚いている。

 エルン達へ攻撃するもこちらも届かなくなっている。


「これが巫女の力だとおぉぉ!!」

 俺同様に皆んなも光り輝いて空中で祈りを捧げている。

 なんとなく一心に俺に頑張ってと言っている声が聞こえてくる気がした。

 魔王の攻撃を防いでいるのは皆んなの力。

 その助けを借りて、俺の持つ聖剣の刃は魔王の額を貫いた。



 「おのれ! 世界樹! おのれ! 戦士!! ぬおおおおおおおおおーーーー!!」


 雄叫びのような断末魔を上げると、魔王の体は崩れ出してきた。

「早く逃げないと!」

 だが俺には走る力も残っていない。

 最後の一撃に全ての力を使ってしまったようだ。


 皆んなだけでも逃さないと……。

 その時俺の体がまた輝き、皆んなと同じ光の中に転移した。


「剣児様」

「剣児」

「お兄様」

「剣児…」

「剣児さん」


「皆んな無事でよかった……」

「剣児様、あれを見てください」

 下を見ると魔王の体となっていた世界樹の木が崩れていくのが見えた。

「世界樹無くなっちゃったな」

「良いんです。 私達がより良い国を作れば良いんですから」

「そっか……」

 崩れていく世界樹を見ていると、体が透き通ってくる。


 いつもみたいにすぐに消えないのは世界樹がくれた最後の時間かな……。

「剣児ー!」

「お兄様ー!」

「剣児さん!!」

「剣児ー!!」


 皆んなが泣きながら抱きついてくる。


「絶対お兄様に会いに行きます!」

「私とスウィーも待ってるぞ!」

「剣児さんも由衣さんも絶対また来てください!」

「剣児〜やだよ〜離れたく無いよ〜!!」


 俺だってもっと皆んなと一緒にいられたら……。

 その言葉はもう皆んなには聞こえなくなっているようだ。


「剣児さん……また……。


 皆んなから少し離れているエルンは涙を流しながら笑顔で告げてくる途中で戻ってしまった……。

 由衣に魔王を倒した事

 皆んなの事を話し、由衣も涙を流していた……。



―――――――――――――――――――――――――――


 ドンドンドン

 ピンポンピンポン

 ドアを叩く音と呼び鈴を鳴らす音がする。

 また由衣が来たのか……。

 俺が異世界に行き、魔王を倒してから5年の月日が経った。


 俺は大学生、由衣は高校生になっている。

 由衣は休みになると1人暮らしをしている俺の部屋にやってくる。

 理由を聞くと、「お兄ちゃんがだらしないからでしょ!」とか「ご飯もコンビニばっかりなんだから」とか言う理由らしい。


 掃除、洗濯、ご飯の支度をしてくれるのは俺としてはありがたいけどね。

「お兄ちゃん!早く開けてよ!」

 朝早くから来なければゆっくり寝れて最高なんだけどね……。

「今開けますよー」

 眠い目を擦りながら玄関を開けて由衣を中に入れる。

「もう、遅いよ!」


 …………。


「見ましたか?」

「見ましたね」

「いたね」

「由衣さんもいるなんて」

「剣児変わって無いな〜」



 …………。


 数分後……。


 ドアをノックする音が聞こえる。


 俺は宅配便だと思ってドアを開けに行く。

 皆んなの笑顔がそこにある事を知らずに。

 

 ……そして………新しい生活が始まる……。

 

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強制召喚も悪くない かなちょろ @kanatyoro

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