第12話 魔王と決戦も悪くない

 部屋のベッドで由衣と魔王について話をしていた時、腕が熱くなる。

この召喚で魔王を倒さなくてはいけない。

そう考えると拳に力が入る。


ベリーに召喚された俺は改めて魔王と対峙する。

魔王は漆黒のマントに身を包み、ツノが生えていた。

人とは違う畏怖を感じる。

「やっと来たか、世界樹の戦士よ」


「剣児これを!」

 ライムスが投げてきたのは世界樹の聖剣。

  聖剣を受け取り、微動だにしない魔王に振りかざす。

 だが、障壁に阻まれ剣は届かない。

「なんだ、こんなものか?」

 魔王が片手をエルンとベリーに向けると漆黒の炎が2人を襲う。

「あぶねぇ!」

 咄嗟に体で2人を炎から守るが、この炎の熱は俺の体に伝わってくる。


「あっつ!」

 後ろ部分の服は焼け、皮膚にも結構酷い火傷の跡がついた。

 エルンが聖なる祈りで火傷を治してくれている間に三人は攻撃を繰り出している。


「はあああ!」

ラミュの拳が魔王の顔を捉えた…ように見えたが、障壁に阻まれる。

「はああ!」

ラミュが更に拳に力を込める。

 障壁にヒビが入り、シャムのナイフがヒビの入った障壁の隙間から魔王の顔を狙う。

 魔王は指一本でシャムのナイフを止めると黒い炎でナイフを焼き尽くす。


「はぁ!!」

 背後からライムスの剣が魔王の首にヒットした。


バキンッ!

 ライムスの渾身の一撃で放った刃が真っ二つに折れる。

「くっ!」

 魔王は自分の周りに黒い炎をだしてライムスとラミュの二人を吹き飛ばした。


「ライムス!ラミュ!」

「大丈夫だ!」

「大丈夫です!」

 ベリーもでかい火球で魔王に放つが片手で弾かれる。


 傷も癒えた、行くぜ!!

 俺は魔王に飛びかかる!

 聖剣を魔王の角に叩き込んだが刃が通らない。

 ダメかっ!?

 魔王の炎に吹き飛ばされるがなんとかもち直す。


「お兄様!障壁のヒビが入っている場所を!!」

「よしっ!」

 だが魔王も突っ立っているだけではない。


 魔王の強い一撃は俺以外が当たれば即座に戦闘不能になりかねない。

 攻撃をさせないために皆んな散開して魔王に連続攻撃する。


「これでどうだ!」

 俺の渾身の一撃が魔王の体にヒットした。

 魔王の障壁を少し切り裂いたが体には薄皮一枚分しか切れていない。


「もう少し楽しませてもらうとしよう」

 魔王は自分で出した黒い炎に全身が覆われ、炎がどんどん大きくなる。

 城の天井も崩し、炎が十メートルにも達しようとした時、黒炎が消え、巨大になった魔王が現れた。


 でけぇ!

 そのサイズにたじろぎながらも切りかかったが…。

  魔王の平手に吹き飛ばされ、城の外まで飛ばされる。

 飛ばされている間に時間になり一瞬戻るが、エルンに召喚される。


「エルン!皆んなは無事か?!」

「はい!」

 でかくなった魔王には今のままじゃまた吹き飛ばされるな…。

「ならば!」

 俺は全身に刻まれた呪いの力を使い体を強化させ、魔王に斬りかかる。


 魔王の魔法を掻い潜り、放ってくる拳を飛んで避け、拳から腕の上を駆けて魔王の顔を狙う!


「くらえ!」


 魔王の顔に切りかかった時、魔王の口から出た黒い炎に地面に吹き落とされる。


「くそ!届かない!」

「お兄様!私達が援護します!」

「シャムさん!行きますよ!」

「まかせとけ!」

ラミュとシャムが両サイドから攻める。


「ラミュは力で魔王の拳を受け止め、シャムはその隙をついて腕を駆け上がる!

 魔王がシャムの方を振り向く。

「危ない!」

 魔王の炎を一瞬で避け、身を引くと同時にナイフを投げる。


 魔王に効果ないが、注意は反らせた。

 ライムスとベリー、エルンが足を攻め、俺はラミュに魔王の頭上高くまで投げてもらい、剣を両手に持って、一気に魔王目掛けて落ちる。


 魔王が黒炎を吹いてくるがそんなのは構うもんか!

「うおおおおー!!」

 俺の一撃は黒炎を貫き障壁を破り魔王の額を貫いた。

「やった!」

 魔王はそのまま黒い炎に包まれ、どんどん小さくなっていく。


「剣児様!やりました!」

「ついに魔王を倒した!」

「やったね!お兄様!」

「さすが私の剣児!」

 エルン、ライムス、ベリー、シャムが抱きついて来て喜んでいる中で、ラミュだけは未だ消えていない黒い炎を見つめている。


「まだです!!」

 ラミュが叫ぶと同時に、黒い炎はさっきよりも巨大化し、黒い大樹が現れた。


 ここで一度戻るが、ふただびシャムに召喚される。

 黒い大樹から巨大な根が無数に伸び、大地を覆う。

「まさか…」

 ベリーが青ざめた顔をしている。

「魔王は世界樹を枯らしたんじゃない!世界樹と融合して取り込んだんです!」


「つまり?」

「世界樹と一つになったと言うことです!」

「呑気に話してる暇はないぞ!」

 根からの攻撃を避けながらライムスが叫んでいる。


「かてぇ!」

 シャムのナイフでは歯が立たない。

 ラミュの拳でも根すら砕くことは出来て無い。

「それなら俺が!」


 ガッ!


 聖剣も通らないのか!?

 大樹の根はどんどん広がり、城、沼、森まで達して根に近い森の木々はどんどん枯れ始めている。

 魔物すら根の攻撃を受けて倒されているようだ。

 無差別かよ。

 そして大樹はどんどん大きくなっている。


「根が広がれば広がる程、大樹も大きくなっているようです」

「根からマナを吸い取って巨大化してるんです!このままだと大地も海も全てが不毛の土地となっちゃいます!」

「そうなったら人も魔物ですらも生きてはいけません!」


 皆んな必死に攻撃しているがダメージは与えられてない。

俺の攻撃もダメージにはならない。

 でも止めるわけにはいかない!

 攻撃を続けていると時間になり、部屋に戻ると由衣が心配そうに聞いてくる。


「どうなの?お兄ちゃん?」

涙を溜めて訴えかけてくる。

「心配ないさ」

 俺は精一杯の嘘をつく。

「次は私も行く!」

「おい!ダメに決まってるだろ!」

「皆んなが戦っているのに私だけ何もしないなんて嫌だもん!」

「危険なんだ!」

「なら、尚更だよ!」

 そう言って由衣は俺の腕をがっしりと掴んで離さない。


 そして今度は2人でライムスに召喚された。


 召喚された場所はさっきとほとんど変わらないけど、戦っているのは俺たちだけで無く、王国軍の兵士達も大樹に立ち向かっている。


「エルン!兵士達じゃ無理だ!下がらせないと!」

「私もそう言ったのですが…」


 その時一人の兵士が吹き飛ばされてくる。

 

「大丈夫ですか?!」

「ああ……」

 兵士は起き上がり剣を持ち再び立ち向かおうとする。

「おい!無理だ!」

 俺は止めるが、兵士は剣を杖にして立ち上がる。

「俺達だってこの国や世界を守りたいのさ……」

 傷だらけで尚も黒い世界樹に立ち向かって行く。


「お兄ちゃん…これって…」

 由衣はとてつもなく大きな樹木と、それに立ち向かっている多くの王国軍をみて唖然としている。


「あれが魔王さ…」

「あれ…が…?」

「由衣さん何故ここに!?」

「ここはちょーっとばかり危ねぇぞ!」

 魔王の枝と対峙していたラミュとシャムが俺の姿を見て戻ってきた。


 由衣はすぐさまラミュに抱きついて状況を聞いている。


「剣児!」

 聖剣を渡してくるライムスも息が上がっている。

「剣児様…召喚が後一回となりました…」

 既にベリー、エルン、シャム、ライムスの召喚は使ってしまっている。

 エルンは王国軍の兵士もほとんど倒され、今は静かになっている魔王を見ながら俺に言う。


「剣児様…魔王は強すぎました。 私の失態です。 剣児様がいれば魔王も倒せると軽く考えていたのかも知れません…。 この世界の問題は私達の問題です。 剣児様は私達が無理矢理こちらの世界に召喚して戦わせてしまっています。 ですからこちらの世界の事はお気になさらずにいて下さいね…」


 涙を溜めて笑顔でそんな事を言ってくるエルンを俺はエルンの頬を軽く撫でるようにポンっと叩く。


「もうこんなに関わっているのに今更それは無いだろ! それに皆んな大事な人だ! あんな魔王は軽く倒してやるよ!」

 俺は残り少ない時間で魔王に突撃する。

 魔王が動かない今がチャンス!

 魔王の体を駆け上がり、聖剣を振り下ろす!

だが、聖剣は軽く弾かれる。


「くそぉー!!」

 俺は何度も魔王に聖剣を振り下ろすが、傷一つつかない。

 そして時間が来てしまった。

 次が最後の召喚…。

 これで倒さなければ俺達の負け。

 エルン達の世界が滅んでしまう……。


 俺が部屋で膝をついていると由衣がジャーンプ!と言いながら俺の背中目掛けてボディプレスをしてくる。


「ぐはっ!! 何すんだ!」


 そのまま抱きついてくる由衣は涙声で話してくる。

「お兄ちゃんは強いんだよ! 私を助けてくれた時からお兄ちゃんは私のヒーローなんだから。 エルン様達のヒーローにだってなれるはずだよ!」

 由衣は昔、迷子になった由衣を必死に探して見つけた時の事を言っていた。

「由衣…」

「だから負けないで! 勝ってまたエルン様達の所に行こうよ!」

「……そうだな……」

 由衣に励まされている時に、腕が熱くなって来た。


「お兄ちゃん行ってくるぞ!」

 由衣を背中からどかしてそう言うと、由衣は笑顔で頷き少し離れて「頑張ってね」とその一言だけ聞こえた。


 最後の召喚は既に魔王の前まで全員が来ていた。

「剣児さん!行きましょう!」

 全員で怒涛の攻撃を魔王に浴びせるがびくもとしない。

「何か手は無いのか!」

 ベリーに声をかけるが、ベリーも首を振るだけだ。

 魔王は全く攻撃をして来ない。

 時間がない…。

 俺は焦る。


 その時、魔王の幹の部分から魔王の顔が浮かび上がり、喋り始めた」

「……どうした……異世界の戦士よ……お前の力はその程度か……?」

 出てきた顔目掛けて聖剣を振るうが、魔王が動き始め、攻撃を仕掛けてきた。


 枝に阻まれ顔には届かず、弾き飛ばされる。

 皆んなも枝に攻撃をされて必死に応戦している。

「……異世界の戦士よ……もう良いのではないか?……お前では私は倒せん……死ぬだけだぞ……?」

「だからって、はいそうですか!と言ってやめる理由はないんだよ!」

「……後……20秒か…? いや、10秒程か……」

「くそおおおお!!」

 俺は呪いの力を使い、防御をかなぐり捨てて突進する。


 魔王の枝をエルンの聖なる光が抑え、ラミュが力で抑え、ベリーの魔法で強化したライムスとシャムが撹乱する。


 俺の剣は魔王の額に届いた。

 俺は聖剣が折れてしまうのでは無いかと言う位の力で押し込んだ。


 そして……時間となってしまった……。


 部屋に戻った俺を見てくる由衣に首を振り、泣き出してしまった由衣を抱きしめて、エルン達の事を考える。


 1日経てば召喚も出来るはず!

 1日逃げ切ってくれれば、もう一度戦える!

 1日だけ頑張ってくれ!


 俺はそう願わずにはいられなかった……。

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