第11話 決戦だって悪くない

 皆んなから告白された後、次に召喚された時は決戦となる。

 そう考えるとなかなか寝付く事が出来ない。

 それはそうだ。

 その辺の雑魚とは違う、魔王と言う名を持つ相手だ。

 正直怖い。

 でも皆んなの事を考えればやるしかない!

 少しでも寝ておかないと駄目だなと召喚されるまで、布団で目を閉じる。

  そんな時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「お兄ちゃん、ちょっと良い?」

 由衣が枕を持って立っている。

「どうした?」

「今日一緒に寝ても良い?」

「急にどうしたんだよ」

 体をフルッと震わせているからとりあえず布団に入れてあげた。


 お互い背中合わせに寝る。

「お兄ちゃん明日魔王と戦うんでしょ?」

「そうだな」

「勝つよね?」

「もちろん」

「お兄ちゃん死なないよね?」

「当然」

「皆んなも死なないよね?」

「皆んな強いからな」

「そうだよね…」

 ごそっと由衣が向きをこっちには向いて抱きついてくる。


「お兄ちゃん!絶対死んじゃ駄目だからね!」

「死なないよ」

「絶対、絶対約束だからね!」

 小刻みに震え、おそらく泣いているであろう由衣の手を取って、落ち着かせる。


 大丈夫!俺は負けない!


 由衣を泣かせるなんて出来ない。

 絶対勝つ!

 部屋のカーテンから朝日が溢れる。

 由衣は泣き疲れたのかスヤスヤと寝息をたてて眠ってしまっている。


 腕が熱くなって来た。

 決戦だ。

 由衣を起こさないようにそっと腕をどかして着替えを済ませて準備する。

 由衣絶対お兄ちゃん絶対帰ってくるからな。

 由衣の頭をそっと撫で、召喚される。


「お兄ちゃん頑張って…」


少し前の時間……エルヴァリース。


「何か城がさわがしいですね」

 エルンは剣児に伝えた想いと、決戦を前に眠れずにいた。

「エルン様大変です!」

 ライムスが勢いよくドアを開けて入ってくる。

「魔王軍の奇襲です!」

 エルンは慌てる素振りもない。

「急いで支度を!」

「もう出来てるぜ、エルン様」

「準備バッチリ!」

「こうなるだろうと思っていました」

 シャム、ベリー、ラミュは既に装備を整えてエルンの部屋へ入ってきた。


「皆さん」

「行きましょう!エルン様!」

「ええ!」

 エルンも準備をして配置に着く。

「エルン様、既に王国の第一陣は出ています。 我々も急ぎましょう!」

「スウィー、お願いします」

「は!エルン様!」


 皆んなスウィーの後について走り始める。

 既に魔王軍との戦闘は始まっている。

 その中を兵士に庇われ道を開いてもらいながら進む。


「エルン様、この先の森を突っ切ります!」

 スウィーの案内だが、そこは魔の森と呼ばれる場所。

「おい!スウィー!こっちで本当に大丈夫なのか?」

 シャムやラミュは嫌な気配を感じている。

「スウィーさんを信じて進みましょう!」

 森の半分まで進むと多数の獣の魔物が立ち塞がる。


「きましたね」

 ベリーが杖を構える。 が、ラミュが止める。

「ベリーさんは最後まで魔法力を温存しておいて下さい。 ここは私が!」

「はああ!!」

 ラミュは近くの巨木を引き抜き、魔物に投げつける。

 それをかわした魔物はシャムとライムス、スウィーに倒されていく。

「全部倒す必要はありません!私たちは急いで魔王の元へ!」


 魔物の追ってはどんどん増えてくる。

 森の出口が見えて来る所までやってくるとスウィーが立ち止まる。


「エルン様!」

「なんです?スウィー?」

「この森を抜けた先、魔の沼を越えて死者の谷まで行けば魔王城はもうすぐです!俺はここで追っ手を食い止めます!」


 追ってくる魔物を見つめエルンに言う。

「無茶だ!スウィー!」

 それを聞いたライムスはスウィーを止めようと腕を掴む。

「姉さん!」

「この大群を一人でどうにかなるわけがないだろ!沼まで行けば追っ手だってついて来れなくなる!」

「確かにそうだけど、沼に着く前に挟み撃ちにあったらそれこそ全滅だ!」

「でも!」

「任せてよ姉さん。 伊達に魔王軍幹部やってたわけじゃないよ」

 それだけ言ってスウィーは追ってくる魔物に突進していく。


「スウィー!」

 ライムスの声はもう届かない。

「ライムス、スウィーの気持ちも考えてやれ!私たちは先を目指すぞ!」

 シャムはライムスの肩を叩くと、先陣を切って走って行く。


 森を抜けたその場所は渡る道がほとんど無く、霧が立ち込める沼地だった。

「皆さん、沼には落ちないでください」

 余程臭気が凄いのか、ラミュは鼻を押さえて訴える。

「私が先を見てくる」

 シャムは持ち前の機敏さを活かしてどんどん沼の中を進んでいく。

「大丈夫だ!」

 シャムの声がした方へ皆んなが進む。


 ズルッ!


「きゃあ!」

 エルンは霧で見えなかった足元を滑らせ沼に落ちそうになる。

「危ない!」

 間一髪シャムの手がエルンを掴む。

「どこに行く気だよ」

「シャムが大丈夫と言うからだろう!」

 ライムスがシャムに文句を言う。

「私はそんな事一言も言ってないぜ」

「でも確かにシャムさんの声が聞こえました」

 臭気で参ってしまっているラミュを支えているベリーが言う。


「そう大丈夫だよ」

 霧の中からまたもシャムの声がする。

「誰だ!私の真似してるのは!」

「大丈夫だからこっちにはおいでよ…」

「気味が悪いな」

「私こう言う雰囲気だめなんですー!」

 ベリーの風魔法で霧が分散するが、消える事はない。


 奥の霧の中に影が3つ浮かび上がる。

 影は濃くなり段々と人の形を取り始めた。


 霧の中から出てきたのは顔は口しか無いが、エルン、ライムス、シャムに似ている異形の物だった。


「いやー!!」

 ベリーはラミュにしがみついてしまい、ラミュの動きが取れない。

「気持ち悪いんだよ!」

 ライムスは自分と同じ形をした異形の物に切り込んでいく。


「私の姿をするならもっと美しくしな!」

 シャムも自分の姿に似た異形に突進していく。

 エルンも自分に似たいに切り掛かってはいるが、苦戦している。


 3人とも同じ姿をした異形に苦戦する。


 それもそのはず、異形は3人と同じ身体能力を持っているようで、ながなが決着がつかない。


「こんな所で時間をとっていられないのに」

 エルンも頑張って立ち回っているが、勝負がつかない。


「わあああ!!」

 突然ラミュが叫び出すと、しがみついていたベリーを引き剥がし、3人の異形に突っ込んでいく。

 一撃で異形を倒して行くと、そのまま沼の出口まで走って行ってしまった。


「ラミュさん臭いに耐えられなかったみたいです」

「助かった」

「さぁ、ぐずぐずしていられません!先を急ぎましょう!」

 先に行ってしまったラミュを追いかけて沼地を脱出するのだった。


 死者の谷。

その場所は生きとし生けるものがいない場所。

薄暗い岩だらけのその場所たどり着いた5人の前に魔王が現れた。

「ほぅ、あの沼を越えたか。 楽しんでもらえたかな?」

「魔王!」

 5人は身構え、剣児を召喚する体制をとる。

「我が城まで来るが良い」

 魔王は掻き消えると同時に、5人の足元に魔法陣が浮かぶ。


 一瞬にして魔王の玉座前に飛ばされた5人は、魔王と対峙する。

「よく来た。世界樹の巫女達よ」

「何のことですか!?」

「何も知らないのか」

 魔王はクククと笑う。

「教えてやれ」

 魔王の影から出てきた人物に5人は目を疑った。


「師匠!!」

 ベリーは叫ぶ。

「ククク、時間はまだたっぷりあるからな、少し昔の話でもしてやろう」

 魔王がそう言うと、虚な顔のロニアが話し始める。


「わしがまだ若かりし頃、恋人と普通に暮らしておった。じゃが、恋人が見知らぬ病気にかかり、薬でも魔法でも治せない。 わしは治療法を見つけるためになんでもやった。 人の命ですらな。 しかし駄目じゃった。 治し方を探しに探した……。そんな時に見つけたのが世界樹の力ならどんな病気も治せると言う文献じゃった」


「病気になったジューンに必ず世界樹の葉を持ってくる約束をし、旅立った。 わしはボロボロになりながらも世界樹を見つけたのじゃ」


「そして世界樹の葉を取った瞬間に葉は枯れてしまった。 何枚も繰り返し取ったが全て枯れた。 わしは世界樹に祈った。ひたすら何日も何日も…」


「じゃが、世界樹は全く答えてはくれんかった…。 葉がだめなら実でも枝でも取れればと思ったが全て枯れた…。世界樹の葉を枯らさずに取るには選ばれし者で無いと無理とわかり、わしはその者を世界中探した」


「そしてとうとう世界樹に選ばれし巫女を見つけたのじゃよ。 しかし時既に遅かった…。 巫女を連れて世界樹に戻った時にはジューンは亡くなってしもうた」


「わしは呪った。世界樹をな。 しかし、調べて分かった事がある。 世界樹は湧き出る負の力を少しずつ長い時をかけて浄化していることを。 一気に取り込むと世界樹ですら枯れさせる負の力ならジューンを生き返らせてくれるのではと、わしは研究を始めた」


「そしてとうとう負の力に巡り合えた。 その力は素晴らしかった。 ジューンは生き返り、わしの老いた体も蘇ったのじゃ。 しかし世界樹がわしの負の力を吸収し始めた。 力が弱くなったわしにはジューンを生かしておく事が出来なくなった」


「そしてわしの前でジューンはもう一度死んだのだ! わしは世界樹が長い時間をかけて浄化している負の力を全てこの身に取り込んだ。 そしてわしから二度もジューンを取り上げた世界樹に負の力を全て注ぎ、枯れさせてやったのじゃ!」


「だが、枯れ木から世界樹の宝珠なる物が生まれ、巫女の資格がある物が手にすると、異世界から世界樹を復活させる事が出来る戦士を召喚すると言うでは無いか! ならばわしは、世界樹に導かれた戦士を倒して、世界樹そのものを消し去ってやろうと考えたのじゃ…」


 虚な顔のロニアはそこで喋るのをやめた。


「どうだ?少しは面白い話だったろう?」


「貴方は間違っています!」

「ほぅ…」

「いくら恋人のためとは言え、人を手にかけた者を世界樹が力を貸すとは思いません!」

「ククク、本当の恋など知らぬ若輩者が吠えるな! お前達は世界樹の戦士が死んでもそのような事が言えるのか? 楽しみだな」


 エルン達は少し動揺する。


「まぁ、今となってはどうでも良い。 世界樹に携わる者全てこの世から消しされればそれで良い。 世界樹が無くなればこの世に争いは絶え間なく続くであろうからな」


「なんてことを…」


「師匠!師匠!しっかりして下さい!」

 ベリーの呼びかけにも反応のないロニア。


「こやつは私の抜け殻だ。 お前が出会った者も私が捨てた物に過ぎん。ただ探究心だけは残っていたようなので、丁度良い道具になったがな」


「道具じゃない…、師匠は道具なんかじゃ無い!」

 ベリーは叫ぶ。

「師匠は私を大切に育ててくださいました!魔法だって!」

 瞳に涙を溜めながら叫ぶ!

「それは全て私の捨てた感情だ。 お前が受けたと言う愛情は単なる幻にすぎん」

 魔王が指をパチンと鳴らすとロニアは崩れ溶けて行く。


「そんな…師匠!師匠!」

 その場に崩れ落ちるベリーを見て魔王は笑う。

「よくも…よくも師匠を!」

 今にも飛び出しそうなベリーをエルンは必死に抑える。


「ふむ、そろそろ良い時間だ。 王国軍も引いたぞ」

「あなたは、こちらの作戦を知った上で、時間稼ぎに付き合ったと言う事ですか…?」

「そうだ。世界樹に携わる者以外はどうでも良い。 さぁ、そろそろ世界樹の戦士を召喚したらどうだ?」


 そこにベリーの魔法が魔王に襲いかかる。

 それを開戦の合図のように皆んなが動き出す!

「「よくもべりーを!」」

「ベリーさんを!」

「「「泣かせたな!!!」」」


 ライムス、シャム、ラミュが魔王に斬撃、打撃を与えに行く。


 だが、魔王の体に障壁があるのか、攻撃が届かない。

「くそ!擦り傷程度でもダメージが与えられると思っていたのに!」

 ライムスの剣は魔王にやすやすと捕まれ、ラミュの拳や蹴りも片手で塞がれる。


 二人が抑えている所をシャムの投げナイフが狙うが、障壁に阻まれ体に届かない。

 二人共吹き飛ばされるが、ベリーの巨大な火球が魔王を襲う。

 魔王に火球が当たった間にベリーは宝珠を掲げた。

「お兄様、お願い!」

 ベリーの持っている宝珠が輝き始める。


 俺は魔王の前に召喚されたのだった。

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