第10話 決戦前夜も悪くない

 剣の闇の力を振り払い、世界樹の聖剣をエルンの活躍により手に入れる事が出来た。

魔王の城へ攻め込むためにフォンデュ王国の力も借り、皆んな準備している。


 しばらく召喚される事も無く日々を過ごしていた。 

 そんなある日、俺だけで無くまだ家族皆んな眠っている頃、夜明け前に召喚された。


「シャム?」


 まだうっすらと薄暗い暁、木の上にいるシャムが召喚したようだ。

「何かあったか?」

 緊急時以外は召喚出来ないと聞いていたが……。


 シャムは俺の質問には答えず、木の上ナイフを回しながら口を開く。

「剣児はさぁ…」

「なに?」

「私の事…好きか?」

「え?」

「私は剣児の事が好き。 家庭を持ちたいと思ってる」

「な、なんだ、いきなり」

「今度は最後の戦いだろ?生きるか死ぬかわからないからな、今伝えとかなくちゃ」

「死ぬわけないだろ!」

「もちろん剣児は殺させやしない。でもこの戦いが終わった後はそっちの世界に帰っちゃうんだろ? 私が行けない世界に」

「でもまた召喚してくれれば」

 木の上からヒョイっと飛び降りてきて俺の前に立つ。

「まぁ、そうなるよな」

 シャムはゆっくりと腕を俺の首に絡めてきて、頬にキスをする。


 !!


「今はここまでだな。皆んなに悪いし」

「さてと、剣児!またな!好きだぜー!」

 そう言うとシャムは走って行ってしまった。

 まだ感触のある頬が熱い。

 シャムの走り去った方を見ていると、ベッドに戻ってきていた。


 朝食を食べ終わり、参考書を買いに家を出る。

 デパートの本屋で立ち読みしていたら腕が熱くなってきた。

 やばい、ここだと誰かに見られる。

 急いでトイレへと向かい、個室に入る。

 召喚されたのは…初めて見る部屋だ。


「や、やぁ…」

「ん?…ライ…ムス…?」

 いつもの軽鎧とは違って、赤いドレスを着ている。

 化粧もしていて、綺麗な顔がより映える。


「どうしたんだ?」

「うん、え……と、これどうかな?」

 自分の身に着けているドレスをスカートの部分を持ち見せつけてくる。

「よく似合ってるよ。 でも今日は何かあるの?」

「ほ、ほら、私が馬車で外を見て考え事をしていたのは覚えてるだ…かな?」

 なんか喋り方まで変だ。

「覚えてるよ」

「そ、そうか、よかった…。」

 …………………。

 …………。

「ちょっと!ねぇさん!」

 急に衣装ダンスからスウィーが出てくる。

「うわ!」

 ビビった!


「姉さんちゃんと言わないと!あの日は僕の誕生日だったでしょ!」

「ああ…うん」

 いつものライムスとは思えない程きょどっている。

「今までスウィーの誕生日が出来なかったからな…さ…、今日一緒に祝ってやってくれないか?」

「そう言う事なら大歓迎!」

「あ、ありがとう」


 スウィーがライムスを椅子に座らせると俺も椅子に座る。

 スウィーが一本のナイフを持ってきてライムスの前に置く。

「なぁ、剣児。このナイフをスウィーに渡してやってくれないか?」


 俺はよくわからなかったが「構わないよ」

 ナイフを手渡されて、跪くスウィーの手に渡す。

「剣児さんありがとうございます」

 ???

「これは私達の地方の誕生日の儀式で、男子には父親が一人前となった印としてナイフを手渡す事になっているんだ」


 これが誕生日かぁ…所変わればだな。


「そ、それともう一つなんだが…」

 ライムスが椅子から立ち上がり、近寄ってくる。

「スウィーの事助けてくれてありがとな。 ちゃんとお礼言えてなかったからさ…」

「お礼なら前に言ってくれたんだから良いよ」

「そ、そうか…」

 ………。

「じれったいな、姉さん」


 スウィーがライムスを押すと履き慣れてない靴のためかバランスを崩してそのまま俺に倒れ込んでくる。


「きゃ!」

「危ない!」

 

 なんとか抱き抱えることが出来た。

 ライムスがジッと俺の顔を見る。


 …………。


 徐にライムスが俺の顔を両手で持つとシャムとは反対側の頬にキスをしてきた。

 ……。


「こ、これはお礼だから…」

 そう言ってライムスは立ち上がると走って部屋から出て行ってしまった…。

「ごめんね、剣児さん。あんな姉さんだけど、よろしく頼むよ」

 ライムスにキスをされるとは全く思わなかったので、なんかこっちもドキドしてしまった。

 顔が熱くなったまま、デパートのトイレから出て、参考書を買うのも忘れ公園に向かった。


 ジュースでも飲みながら一息つこう。

 ベンチに座ってジュースも飲み干し、ゴミ箱に空のペットボトルを投げ入れる。

 上手く入ったと同時に腕が熱くなり始めた。


 また召喚されるのか?

 今日はなんなんだ?

 場所は本が沢山乱雑に並んでいるベリーの部屋。


「お兄様〜」

 ベリーが抱きついてくる。

「どうしたの?今日は?」

「聞いてほしい事があって」

「なに?」

「私ね、エルン様の妹になる事になったの!」

「本当か! それはよかったじゃないか!」

「これからはエルン様をエルン姉様と呼べるの!」

 ベリーは凄く嬉しそう。


「それでね、お願いがあるの」

「俺に出来る事なら」

「エルン様とは家族になれたから、今度はお兄様と家族になりたいな」

「え、それはどう言う?」

「私が大きくなるまで、待っててほしいの!」

「待つって…」

「大人になった時にはお兄様と結婚したい…な…」

「でも、俺はこっちには…」

「私がなんとかする!大人になるまでにお兄様の世界に行ける方法を見つけるから!」

「そうなったらいいな」


 ベリーなら出来るかもしれない。

「それじゃお兄様、また後でね」

 ベリーが部屋を出ようとドアに向かったが、振り向き戻ってきた。

「あ、忘れてた!」

「忘れ物?」

「お兄様、ちょっと耳貸して」

「?」

 ベリーの背に合わせるように屈み、耳を向ける。

「大好き」

 小声でそう言うと、俺のこめかみ辺りに顔を近づけてくる。


 チュッ♡

 キスして部屋から出て行った。


 公園に戻ってきた俺は家に帰り、参考書を買う事を忘れてしまったが、今日の皆んなの様子を考える。

 部屋のドアがノックされ、由衣が顔を出す。

「お兄ちゃんもうすぐお昼ご飯だよ」

 そんな時腕が熱くなり、由衣も行くと言うので連れてきた。


 召喚者はラミュ。

 どうやら森の中らしい。

 ラミュは一緒にいる由衣を見てにっこり笑う。

「由衣さんも来てくれて丁度よかったですわ」

 と喜んでいる。

 俺と由衣をぐわっと抱きしめて話し出す。

「私はお二人に会えてとっても良かったです。 お父様が亡くなって1人きりでした。 でも今はこうしてお2人がいる。仲間もできました」


 良い匂いと胸の弾力が…。


「剣児さん、由衣さん、私の家族になりませんか? 私が剣児さんと結婚すれば、由衣さんは私の義妹になりますから沢山お会いできますよ」

「ちょ、ちょっと待って」

「お兄ちゃん逆プロポーズされてる」


 更にラミュは言葉を捲し立てる。

「私、料理などの家事は出来ますから家は私が守ります。 子供も…そうですね、5人位は欲しいです」

「話が早い!」

「やっぱり人族では無い私では駄目ですか…?」


 ラミュの耳が垂れシュンとなる。

「いや、そうじゃなくて…」

「良かった。 なら戦いが終わったら家族になりましょう」

 ラミュは俺と由衣の額にキスをして、森の中へと消えていく。


「お兄ちゃんすごーい!プロポーズされた!」

「い、いやまぁ…」

「私も戦いが終わってもラミュさんとまた会いたいな」

 俺だって皆んなと会いたい。

 でも、戦いが終わった後でも召喚されるのだろうか?


 ラミュに会い、帰ってきた途端に由衣が、「お母さんに報告してくる〜」 と言って部屋から出ていった。

 どう説明するつもりなのだろうか…?


 夕飯時に母に、どんな子なのとか、一度連れて来てとか言われた。

 適当に誤魔化し、はぐらかしたか、由衣はどう説明したのやら…。


 食事も終わり、一人部屋で考える。

 今日は皆んな少し変だったな。

 あとはエルンだけど、もしかしてエルンも…?


 そう思っていたら腕が熱くなり、召喚となった。

 召喚されたのはいつものエルンの部屋。


「お待ちしておりました。剣児様」

 紅茶のいい香りがする。

「どうぞ座ってください」

 椅子に座るとエルンが紅茶を淹れてくれた。


「今日はどうしたの?何かあった?」

 俺はゆっくりと紅茶を飲んでいるエルンに声をかける。

「剣児様はこの世界の救世主であり、私共の勇者様です。 でもそれは私達側の都合です。 剣児様はご迷惑では無いですか?」

「確かに急に召喚されたりした時は少し困ったけど、今は平気だよ」


「次の戦いでは命の危険性だってありますよ」

「確かに魔王は強いだろうね。命だって危ないのかもしれない。 でも俺は戦うつもりだよ」

「どうして?」

「魔王を倒せるのは俺しかいないんだろ?それに皆んなを危険な目に合わせたく無いからね。皆んなの事好きだから」


「私のこともでしょうか?」

「え、ああ、もちろん」

 2人の間に無言が続く。


「あ、あの、剣児様」

「は、はい!?」

 今までの皆んなの行動を考えるとまさか告白かも!と考えてしまい、裏声で返事をしてしまった。


「私はこの戦いが終われば、もう一度国を再建しようと思います。 ライムスもベリーも力になってくれると言ってくれました」


「よかったじゃ無いか」

「はい」

 エルンは満面の笑顔で返事をする。


「そ、それで、ですね…」

「ん?」

「私はこれから国を再建するわけですが、その時に…、誰か、と、隣にいて頂きたいなと思いまして…」

 エルンの頬が赤くなり、上目遣いでこちらを見てくる。

「え?俺?」

「はい!」

 エルンは力一杯の返事をしてくる。


「だ、駄目でしょうか?」

「駄目ではないけど…」

 駄目ではないけど、俺はこの世界に長くはいられない。


「長くいられない事はもちろんわかっています。ですが剣児様がこちらにいられる方法を探します!」

「そうなると嬉しいよ」

「本当ですか!」

「俺だって皆んなと別れるのは寂しいからね」

「皆んな…ですか…」


 エルンは顔を少し俯かせる。

「それでも構いません!剣児様、よろしくお願いします!」

 そう言ってエルンは立ち上がり、俺に抱き、ついて耳元で「私待ってますから」

 と一言だけ言って部屋のドアを開ける。


 ドアの外には皆んなが待っていた。

 そして次の召喚が戦いの日になると聞いたのだった。

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