第9話 お付き合いも悪くない

 ロニアとカーブとの戦いが終わり、由衣が田舎から戻って3日、未だ召喚は無し。

 由衣はお土産があるから早く召喚してくれないかな?とソワソワしている。


 由衣がいない間に召喚された事は概ね伝え済み。

 家の中が散らかっていたり、食器が洗われていなかったことも、母と由衣に怒られ済みです。

 まだまだ暑い夏真っ盛りの昼、クーラーの効いた居間でだらけていると、「お兄ちゃんだらけ過ぎ!」と由衣に怒られた。

 

 エルン達のいる場所の気候は安定していて、暑くなく少し涼しい。

 運動して丁度良い気候だ。


「早く召喚されないかな…」

 と、ポツリ。

「え!召喚きたの!?」

 由衣が台所から急いで走ってくる。

「早く準備しなくちゃ!」

「お、おい」

 由衣は俺の言葉を聞く前に部屋に行ってしまった…。

  あー…どうしようかな?

 お菓子買ってあげれば大丈夫かな?

 由衣の機嫌を気にする兄です。


 準備万全で下りてくる由衣が「間に合った〜」と言ってくるのに対して俺は、「ごめん」の一言しか言えなかった…。

 しょんぼりしている由衣に今度ケーキを買ってあげる約束をして、機嫌は良くなった。

「2個だからね!」

 と、数は増やされたけど…。


 そしてまた、だら〜っとし始めた時、腕が熱くなり召喚された。

 ちゃんと由衣も呼び、お土産を持って一緒に。

 今回もエルンの部屋に召喚された。

 いつもと違うのは部屋に居るのが、エルンとライムス、そしてカーブだった。

 カーブは召喚された俺の前に跪き、剣を差し出している。


「これはどう言う事?」

「説明致します。 このカーブは魔王軍配下として、世界樹の聖剣を闇に染め、幾多の町、人を襲い、苦しめて参りました。 よって本来ならば首を切られる所ですが、世界樹の勇者である剣児様にどうするか委ねる事となりました」

「……由衣さん、こちらへ…」

 

 由衣はライムスに連れられ部屋から出て行く。

 のこったのはエルンと俺、カーブのみ。

 俺が首を切るかどうか決めるの?

  確かにカーブは今までの行いを考えたら、この世界では即、首を切られてもおかしくはない。

 

 俺もだいぶ痛い目にはあった。

 でもライムスの唯一の姉弟。

 あれこれ考えても答えは決まっている。

 俺はカーブに指示出された剣を取り…。


 へし折った。


 カーブは顔を上げてびっくりした表情だか、俺の選択はこれから罪を償ってもらう事。


「剣児様、良いのですが?」

「ああ」


 エルンはゆっくりと部屋のドアを開け、皆んなを中に入れる。


「皆さんにご報告します。今ここより魔王軍幹部カーブは死に、ライムスの弟であるスウィーさんは剣児様より救われたと言う事になります」

「スウィー!」

 ライムスが抱きつく。

「剣児、ありがとう」

 ライムスの見たことのない嬉し泣きをしながらスウィーと俺に抱きついてくる。


 エルンから聞いた話だと、国王様にはエルンの助力と魔王軍の情報を教えると言う事で許しを得た。

 また、許された事を良く思わない者も少なからずいる為、エルンの臣下として力を貸す事になった。


「お義兄さん。ありがとうございます!」

 スウィーは俺の前に深々とお辞儀をする。

「お義兄さん?」

「はい。だって姉さんと恋中なのでしょう?」

「え?」

「え」

 ライムスとお互いに目が合う。

「ち、ちが、何言ってんのこの子は!」

 ライムスは焦りながら訂正しているけど……。

 その時、エルンの首にかけてある宝珠が輝き出した。

 その宝珠の光はライムスの手の中に入り。


 コロン……。


 ライムスにも俺を呼び出せる宝珠が生まれた。

 皆んながライムスの手の中にある宝珠を見つめ、それぞれの感想を出す。

「まぁ」

「ライムスさんもついにお兄様を」

「さすが剣児さん」

「デレやがった!」

「お兄ちゃん!」


 これにはライムスも顔を真っ赤にし、シャムは大爆笑!

 ライムスは部屋を飛び出し、すぐさま戻ってきた時には、抜き身の剣を携えていた。


「ころす!」


 あ、目がまじだ。

 俺も部屋から飛び出すと、ライムスも追ってくる。


「剣児!まてー!」


 追われている間に、無事に部屋に戻ってくるのだった。

 しかしすぐに召喚され、ライムスの前に出る。

 それを見てまたシャムが大爆笑!


 ライムスは顔を真っ赤にしてプルプル震えているが、エルンに何か言われたようで耐えている。


「えーコホン。 これで、お兄様が召喚出来る回数も増え、スウィーさんも加わり、魔王軍との対戦の前に戦力が増強出来ました。 その魔王軍も後は魔王だけです」

「剣児なら楽勝だよね〜」

 シャムはそう言って抱きついてくるが、由衣に剥がされている。


「ですが、魔王の力は強大過ぎるほど強大です。 身をもって体験してますから」

 スウィーは魔王の力で洗脳されていた事を思い出しているようだ。


「スウィーさんがカーブだった時、待ち伏せ出来たのは魔王がこちらの状況を見ていたからだそうです」

「え?魔王ってこっちの様子が見えるの?」

「はい。魔王城には神眼の鏡という物があります。これに魔力を込めれば大抵の場所は見えるようです」

「じゃあ、こうして作戦会議していても見られてるわけか」

「おそらくは…」


 作戦が筒抜けでは作戦の意味がない。


「ですので、作戦会議は致しません」

「じゃあ、魔王軍とはどうやって戦うの?」

 由衣も心配になり聞いてくる。

「作戦が立てられなければ、魔王軍と正面きっての突撃あるのみですよ」

 ラミュが由衣に応えてくれている。

 それしかないか…。


「そこで、お兄様に見せたい物があります」

「もう一度召喚しますので、その時にお話しします」


「じゃあ、時間になる前に皆んなで食べて!」

 由衣はお土産のお菓子を広げて、皆んなに振る舞い始めた。


「あの…」

 スウィーがこっそり話しかけてきた。

「ん?」

「あの、由衣さんは剣児さんのなんなんでしょうか?」

「ああ、由衣は俺の妹だよ」

「そ、そうなんですね」

 ほっと一安心したように胸を撫で下ろし、由衣を見ている。

 あ、まさかこいつ…。


 時間になり、戻ってきた俺は由衣にスウィーの事を聞いてみる。

 由衣はちょっとイケメンかもねと言っている。

 ダメだぞ!強くてイケメンで、エルンの臣下でも!

 洗脳されていたカーブの時の話し方じゃ無くなって、優しくなっても!

 ………。


 いい所しか無いな…。


 再度召喚された時、由衣は買い物があるからと付いては来なかった。

 召喚場所は牢獄の中に物々しい黒い剣が鎖で繋がれている。

「お兄様、この剣を持ってみてください」

「スウィーがカーブの時に使っていた剣か。 なんでここに?」

「スウィーさんを治療して、城まで連れて帰り、牢にこの剣が現れたのです」

「スウィーについて来たって事か」

「そのようです。 闇の力が強く、またスウィーさんが闇の力に飲み込まれないように封印の鎖で拘束はしたのですが……」


 軽く触れると


 バチッ!!


 電気で弾かれたように黒いオーラが手を拒んでいる。

「剣児様でもダメでしたか」

「でもこれで少しわかりました。 聞いていた形とは少し違いますが、やはりこの剣は世界樹の聖剣です」

「俺持てそうも無いよ」

「闇の魔力が強過ぎます。 お兄様には…その…魔法は殆ど、効きませんが、世界樹を枯らすほどの魔力を持つ魔王が闇の力を施したら別です」

「じゃあ、聖剣は使えないという事?」

「一つだけ方法があります」

 方法があるならそれでお願いしよう。


「ただしこの方法はエルン様の命にかかわるかも知れません」

「エルンの!?」

「はい。 前の戦いでエルン様がスウィーさんの怪我と一緒に闇の魔力を浄化した事は覚えていますか?」

 そう言えば何か黒いモヤが抜けてたな。

「覚えてるよ」

「あの黒いモヤが闇の力です。 エルン様の癒しの力には闇の力を払う事も出来る様なんです」


 なるほど。

 エルンに聖剣の闇の力をを払ってもらうわけか。


「でも命に関わるとは?」

「この聖剣にかかっている闇の力はスウィーさんにかかっていたものより強大なんです。 これを払うとなると相当な力を使わないといけません」


 エルンは一歩前に出て真剣な眼差しで見つめてくる。

「私は大丈夫です。やらせてください。剣児様」

 そうは言っても命に関わるとなるとな。

「他に方法は無いの?」

「魔王を倒すことが出来れば、闇の力は消えると思います。 けど、魔王を倒すには聖剣がやはり必要です」

「そうか…俺に出来る事は?」

「特に無いです」

 そうか…なんかいつも皆んなの力になってあげられないな…。


 俺がしょぼくれている事に気がついたエルンは俺の手を取って、

「大丈夫ですよ、剣児様」

 と言ってくれる。

 戻ってきた俺は夕飯まで部屋で過ごした。

 夕飯時、食事の場で由衣が

「最近のお兄ちゃんモテるんだよ」

 と母に言っていた。

 母はうんうんとうなづき由衣の話を聞いている。


 モテているかはわからないが、確かに召喚されれば周りは女の子ばかりだ。

 これがハーレムってやつですか?

 そんな食事中に腕が熱くなってきた。

 由衣にこそっと告げて、トイレに行くふりをして、召喚された。


「お兄様!エルン様が!」

 召喚されると同時にベリーの叫びが聞こえた。

「どうした!?」

「エルン様が突然苦しみ出して!」


 エルンの方を見ると剣から黒いモヤがエルンを包んでいる。

「エルン!」

 俺はすぐにエルンの元へ駆け寄ってエルンの肩に触れると


 バチッ!


 また電気の様なもので、エルンに触れられない。

「くそ!」

「剣児様…私は大丈夫です…今のうちに聖剣を…」

 聖剣にはまだ黒いモヤがかかってはいるが、前の様な禍々しさは無く、本来の姿が見える。


 急いで聖剣に駆け寄り、聖剣の鍔を両手で握る。


「ぐ!」


 頑丈な体でも闇の力のダメージは受けるようで、体に電気が走ったような痛みがくる。


「お兄様頑張って!」


 聖剣は俺の力でも地面に根が張っている様に抜けない。

 体に走る痛みもだんだん強くなってきた。

 エルンは力尽きたのか、その場に倒れ、ベリーに介護されている。

 エルンが受けていた黒いモヤが全部俺に来たみたいだ。


「くっそおおぉぉー!!」


 ガキンッ!と聖剣を地面から抜いたと同時に黒いモヤが散り散りになり消えた。

「はぁはぁ…」

 やった…。

「やったぞー!」


 俺はトイレの中でガッツポーズして叫んでいた。


 食卓に戻った俺は母に

「もう少し消化に良いものや水分取った方が良いかもね」

 と困った顔で言われた。

 いや、違うんですよ。

 大きい方が久しぶりとかではないんですよ…。

 由衣はくすくすと笑っていた。


 次の日の朝、由衣と一緒に召喚された時、エルンはまだ眠っていると聞いた。

  昨日の事で結構なダメージがあったらしいが、残りの闇の魔力が全部俺に来たからエルンは助かったそうだ。

 良かった。

 そしてこれからはベリーいわく、進軍するのはもう少し先になり準備が必要との事で、緊急時以外はあまり召喚出来なくなる事を伝えられた。

 由衣は少し寂しそうにしている。

 と、そこへ

「ゆ、由衣さん!」

 話すタイミングを測っていたのか、スウィーが由衣の前に花束を差し出す!


「ど、どうか…ぼ、僕と…その…お付き合いをしていただけませんか?!」

「え、ええー!?」

 由衣もびっくりだが、俺もちょっとびっくりだ。

「ど、どうしようお兄ちゃん!私告白されちゃった!」

 い、いや、スウィーなら…、いやダメだ…でも……。

「これは由衣の気持ち次第なんじゃないか?」

 なんとか平静さをとり、由衣に言う。

 スウィーは汗をダラダラにして、由衣の返答を待つ。


「う〜ん…。お兄ちゃんに怪我させた人だからなぁ…」

「うぐっ」

 あ、刺さった。

「皆んなにも怪我させてるしな…」

 グサッ!

「嫌な喋り方だったしなぁ、」

 グサッグサッ!

 由衣さんや、もうその辺で許してあげて!

 ライフが無くなってその場にへたり込んでしまってるじゃない!


 由衣がスウィーの方を振り向き、手を差し伸べる。

「でも、それは昔の事でしょ?」

「由衣さん…」

「せっかくの花が萎れちゃうよ」

 スウィーの手を引き

「お友達からで…いいかな?」

「やったああぁぁあ!」

 スウィーはガッツポーズで喜びの雄叫びをあげている。


 ライムスは由衣を抱きしめて「ありがとう」 とお礼をのべるのだった。

 部屋に戻った俺達は由衣に聞いてみた。

「お友達からならいいでしょ?」

 照れくさそうに言う由衣も、可愛い奴めと思う兄心だった。


「お兄ちゃんみたくならないと付き合わないから…」

  そそくさと部屋を出て行く時に由衣がぼそっと何か言っていたが、良く聞き取れなかった。  

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